[論説]後を絶たない熊被害 政府主導で実効策急げ
環境省によると、今年は4~10月にかけて全国で180人が熊の被害に遭い、うち5人が死亡。統計開始以来、最多を記録した。屋外での作業が多い農家にとって気が抜けない。例年なら11月は、熊が順次冬眠に入る傾向にあるが、いまだに目撃や被害の情報が寄せられている。
北海道東北地方知事会の達増拓也会長らは13日、環境、農水両省を訪問し、熊対策への支援を要請。ニホンジカやイノシシが対象の「指定管理鳥獣」に熊を追加し、捕獲の費用を国が負担することや、熊捕獲に対する国民の理解促進を求めた。熊による人身被害が相次いでいる農村の現状を発信することで、都市住民と問題を共有したい。
なぜ、ここまで被害が多発するのか。今季は餌となるドングリが凶作であることに加え、人を恐れない熊の出現が背景にある。東京農業大学の山崎晃司教授によると熊は11月以降、山に餌がないと諦めて順次冬眠に入るが、人を恐れない熊は、農作物の残さや実が着いたまま放置された果樹があると、それらを求めて動き回り冬眠が遅れる可能性があるという。
被害を防ぐために、必要なのは「熊を近づけない環境づくり」だ。冬眠に入るまで最大限警戒し、地域を挙げて対応に当たりたい。農作物の残さや放任果樹など熊を誘う原因を除去しよう。人家に近い場所に茂みがあれば熊の隠れ場所になるため、刈り払いをする必要もある。既に熊が出没したり被害が発生したりした場所では、再び侵入できないよう電気柵で物理的に遮断する対策も重要だ。農閑期にこうした対策を徹底しておくことで来季以降、熊を近づけない環境ができる。
最大の課題は、狩猟者が減っていることだ。野生鳥獣などの研究者でつくる「ヒグマの会」は、札幌市で開いたフォーラムで「隣接する複数自治体による実働組織をつくり、専門の対策員を雇うなどして実効性を担保するべき」だと提言した。政府主導で被害増加の原因を分析し、来季以降の実効策を確立することが求められる。山崎教授は「熊による今季の被害が収束した後に、状況と課題を整理する必要がある」と指摘する。
省庁や自治体、研究者、現場の狩猟者らの力を結集し、原因の究明と有効な対策を示すことが、熊による被害を防ぐ一歩となる。