[論説]農業水利施設の不備 流域全体で対策検討を
今回、指摘があったのは、国の直轄事業や補助事業で整備した856施設のうち、6割に上る525施設。内容は、ポンプ場や水門など重要施設に設置している非常用の発電設備が水に漬かる危険がある場所に設置していたり、農業用ダムの非常用発電に使う燃料が停電時に必要分を確保できるか不明だったりと、対策が不十分な点が多かった。
農水省は2018年にポンプ場の設計基準、19年に農業水利施設の電気設備の指針に浸水対策を追加した。指摘があったのは、この対策が追加される前に整備されたところが多く、古い時期に設置したため詳細な経緯が分からないケースもあった。流域治水対策を進める上でも、農業水利施設の非常用発電装置の浸水や、燃料切れなどがあってはならない。
地球温暖化に伴い、毎年のように人命に関わる豪雨に見舞われるなど、災害の規模は大きくなっている。政府は、流域の自治体や関係者が協働し、水害を軽減する「流域治水」への転換を促す。
国や流域の自治体などが取り組む全国109の一級水系を対象とした「流域治水プロジェクト」によると、22年度末で119のプロジェクトのうち89が、大雨の前に農業用ダムの事前放流をして水位を下げて貯水に充てたり、農業用水路の水門やポンプなどを活用し、被害を軽減したりといった対応を進めていた。
同年度は延べ101基の農業用ダムが事前放流を行い、洪水被害を防いでいることも分かった。農作物に欠かせない水の供給だけでなく、流域治水対策として、農地や農業用水利施設の果たす力は大きく、日頃からの施設の点検や補修、更新は極めて重要な意味がある。
一方で、戦後から高度成長期にかけて整備されてきた水利施設は老朽化が進む。標準耐用年数を超える基幹的施設は56%、基幹的水路は45%に上る。昨年は明治用水頭首工で大規模な漏水事故が起きるなど、各地で事故が相次いでいる。定期的な点検や補修、更新が重要となり、政府には万全の支援を求めたい。
人口減少社会の流域治水対策は、河川上流の農家や土地改良区、自治体だけの問題ではない。下流の自治体や住民らを巻き込んだ対策が欠かせない。施設で不備が見つかったらどう対応するか、流域全体で考える必要がある。