[論説]COP28の宣言採択 気候変動と農業両立を
政府の交渉担当者によると、宣言案は11月にUAEから条約加盟国・地域に示された。草案は4月の先進7カ国(G7)宮崎農相会合で決まった「宮崎アクション」が下敷きになっており、「みどりの食料システム戦略」で気候変動対策や生物多様性の保全に取り組む日本の考え方とも一致する。
開幕日の翌日となる今月1日、米国や中国を含む134の国・地域の首脳が「異例の早さ」で宣言を採択した。「農業・食料システムの温室効果ガス排出量は全体の3割に上っており、気候変動対策における農業分野の比重が高まっていくと考えている」(関係者)ためだ。持続可能な農業の実現へ、気候変動対策と食料供給の安定化は、世界の共通認識となった。政府の対応は待ったなしだ。
内閣府が11月に公表した気候変動に関する世論調査結果は、温暖化と食料不安を結びつけて考える人が増えていることを示す。「農作物の品質や収穫量の低下、漁獲量の減少」を問題視する人は最多の86%に上った。調査は7月下旬~9月上旬に行われ、酷暑で食料が高騰した時期と重なる。特に大都市の居住者は、町村居住者より15ポイント高い90%が問題視しており、男性(83%)より女性(88%)が高かった。気候危機を通して1次産業に目を向ける機運を高めたい。
地球温暖化は予想をはるかに上回るスピードで進んでいる。世界気象機関(WMO)が11月30日、COP28の開幕に合わせるように、今年の世界気温が18世紀の産業革命から「1・4度上昇する」との見通しを発表した。2015年のCOP21で「1・5度未満に抑える」目標を掲げたパリ協定が早くも達成が危うくなっていると強調、エミレーツ宣言の早期採択に至った。
懸念されるのは、COP28でUAEが「再生エネルギー3割増」「原子力発電3割増」の採択も求めていることだ。数値目標に慎重な国は多く、丁寧な議論が求められる。
日本はいずれも賛同する構えだが、再エネの国内需要は停滞し、東京電力福島第1原子力発電所事故の影響が、いまだに続いていることを忘れてはならない。
政府は、気候変動をきっかけに、日本の農業を大切にする国民を増やす必要がある。食料の自給強化に向け、国民全体の理解と協力を得る努力も欠かせない。