[論説]24年度農林水産予算案 改革元年へ審議尽くせ
政府全体の歳出総額は112兆717億円で前年を割り込んだ。その中で農林水産関係費の増額は、基本法改正に向けた岸田政権の意思の表れといえる。ただ、生産資材の高騰で生産現場を取り巻く状況はかつてないほど厳しい。23年度補正予算で確保した8182億円と合わせ、これ以上、離農が進まないよう万全を尽くす必要がある。
一方で、転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金などは減額した。畑地化促進により、交付対象水田が減ることなどを踏まえたとみられる。財源不足が生じた場合には直ちに手当てするとともに、今後の水田農業政策の展望を早期に示す必要がある。
生産資材高騰で今ほど経営安定対策の充実が求められている時はない。にもかかわらず、財務省が収入保険制度などセーフティーネット(安全網)に関わる予算削減を求めているのは看過できない。
さらに、政府の「デジタル行財政改革会議」は基金の見直しを提言した。11月に行われた行政事業レビューでは、環太平洋連携協定(TPP)対策に絡む基金などを取り上げ、終期設定などを求めた。
しかし、関税削減の影響は長期に及び、農家経営に関わる対策実施の判断は、産地ごとにタイミングを見極めなければならない。機動的な対応が可能な基金を使うことには一定の合理性がある。
当初予算で財源を確保すべき対策でも、厳しい上限規制のため、補正予算に頼る傾向が年々強まる。だが、補正予算の内容や規模は政治力学に大きく左右される。事業の安定運用のために苦肉の策として各省庁が基金を活用してきた面もあるのではないか。食料安保に必要な予算はどうあるべきか、本筋の議論を欠いた予算削減や基金見直しは改革の名に値しない。
農林水産関係予算は1982年の3兆7010億円をピークに減少。ここ10年は2兆円台前半で推移し、微減傾向が続く。離農が止まらない現状は、今の経営安定対策では不十分なことの証左だとの指摘もある。
政府は、来年の通常国会で25年ぶりとなる基本法改正を目指す。長期的な視野で農政の在り方を考える好機だ。既存予算を前提にした財源の付け替えだけで本当に食料安保を確立できるのか。真正面から予算の在り方についても議論を深めるべきだ。