[論説]介護食品市場の拡大 多様な連携で需要喚起
調査会社インテージ(東京)によると、2022年の家庭向け介護食品の市場は130億円と17年の1・5倍に増加した。ドラッグストアの売り場が広がる中、手軽においしく食べられるレトルトタイプが人気で、自宅で高齢の家族を介護する世帯で手に取る人が多いという。とは言え、食品市場全体からするとわずかだ。成長産業と捉え、認知度向上につなげたい。
介護食品の市場拡大に貢献しているのが、業界の基準作りだ。食品メーカーなど96社でつくる日本介護食品協議会は、03年に「ユニバーサルデザインフード自主規格」の運用を開始。日常の食事から介護食まで幅広く使える食べやすさに配慮した食品を、かむ力・のみ込む力、形状、食品形態で各4区分し、区分ごとで規格に適合する商品にマークを貼付して販売できるようにした。現在2000アイテム以上が商品化されている。
京都市では京料理と介護食を融合させた「京介食」が広がりを見せている。同市の愛生会山科病院消化器外科部長の荒金英樹さんが、会席料理店などに呼びかけて京介食推進協議会を発足。医療と地元の事業者との連携により、懐石料理や和菓子、茶、日本酒、豆腐などを相次いで商品化した。こうした医療従事者も入った多職種連携は山形、香川、茨城など全国に広がりを見せている。情報交換を活発に行うことが実需の要望に応える鍵になる。
日本は35年に85歳以上の人口が1000万人を超え、全体の1割を占める超高齢化社会を迎える。厚生労働省の高齢白書によると65歳以上の独居高齢者は20年に男性15%、女性22・1%だったのが、30年には男性18・2%、女性23・9%に増える。嚥下(えんげ)障害を防ぎ、安心して食べられる食品が増えることは、高齢者やその家族にとって食の選択肢が増えることにつながる。
国はできる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活が送れる社会を目指す方針を掲げる。多くの人は、人生の幕を閉じる最期の時まで自分の口で食べる喜び、おいしさを感じたい。多職種連携を一層進めることで、国産食材を使用した商品、季節感のある商品など、新たな付加価値が生まれ、介護食品市場が活気づくことが期待される。