[論説]小水力発電の可能性 利点多く普及進めよう
小水力発電は河川の水をためることなく、水の流れを利用して発電する仕組みで、1000キロワット以下の設備容量を指す。発電設備もさほど面積をとらない。1000キロワットの場合、年間の発電量は約600万キロワット時となり、約1400世帯分の電力を供給できる。農山村に限らず、都市近郊でも設置できる。地震などの災害が頻発する中、こうした分散型のエネルギー確保はますます重要となる。
高知県梼原町松原地区では、農村RMOの安定的な財源確保に向けて小水力発電を設置した。1時間当たり最大で3・4キロワット発電し、四国電力に1キロワット当たり31円で売電する。収入は年間30万~40万円を見込む。電力の「地産地消」モデルといえる。
松原地区の人口は200人ほどで、65歳以上の高齢者は7割を占める。地域を維持するために住民は集落活動センターを立ち上げ、自らの出資や自治体の補助で活動する。廃業した店舗を受け継いでガソリンスタンドや直販所を運営。行政からの支援を受けながら黒字経営を続けている。新たな収益源を見込んで2023年は小水力発電を導入。持続可能な地域のエネルギー活用といえるだろう。
一方、課題もある。建設工事費の負担の他、一級河川の支流に設置したため、県から水利権の許可を得るのに2年近くかかった。スムーズに手続きが進むよう、関係機関の調整が求められる。
小水力発電は環境にも優しく、災害時にも威力を発揮する。環境省は、CO2排出量実質ゼロを目指す一環で「脱炭素先行地域」を育成する。太陽光やバイオマスなどを活用し、化石燃料に頼らない電力供給拡大を目指す。その中には小水力発電も含まれる。
例えば、長野県生坂村は小水力や太陽光発電により、災害時も電力を供給できる体制を整える。食料品を扱う道の駅などの機能を維持しつつ、災害リスクを減らそうとするものだ。こうした地域が増えれば、地震などの災害にも強い農村が築ける。
火力や原子力発電に比べれば電力供給量ははるかに小さいが、まもなく13年を迎える東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で、どれほど地元の農家や住民を苦しませてきたか、思いをはせる必要がある。小水力発電を地道に普及することで、持続可能な地域をつくろう。