[論説]熊本の半導体工場開所 農と工、共存の道探れ
国家プロジェクトとして誘致されたTSMC。2027年には同町で第2工場の稼働を目指す。政府は2工場に対し、約1兆2000億円を投入。先端技術を持った3400人以上の雇用創出と、関連企業の進出を見込む。
TSMC進出で工業用地や住宅地の需要が増え、菊池地域の土地は高騰し、農地の貸し剥がしなどの問題が顕在化、農地転用や減少につながる恐れもある。労働力の確保に向け、地元JAなどとの競合も起きているという。
さらに地元を悩ませているのが、工場誘致に伴う農業、環境への影響だ。懸念されるのが地下水。半導体は製造工程で洗浄作業に大量の工業用水を使う。県によると、TSMCの工場では1日当たり約8500トンの水を使い、ほとんど地下水で賄うという。加えて関連企業がどの程度の水を使うか、県はまだ把握できていないという。
求めたいのは、工業と農業が共存できる方策だ。2月上旬、県内の農業経営者らが呼びかけて「熊本県農業と半導体産業等の共存共栄に関する研究会」が発足した。2月の発足総会には農業関係者や東海大学の他、JA熊本中央会、JA菊池が出席。今後はTSMCなどに参加を促す方針だ。自民党熊本県連も「TSMC関連課題解決特命プロジェクト」を設立、前川收会長は「農業が立っていけないと、工場も立っていけない。農業と半導体が共存する方策を考える」としている。
地下水確保には、地元農家の協力は不可欠だ。くまもと地下水財団は、地下水を枯渇させないため、農家に呼びかけて冬場の田んぼに水を張り、地下に水を浸透させてかん養を進める。協力農家には同財団が補助金を支払う。
本年度は昨年11月から今年3月にかけて西原村、大津町などでたん水を進め、取り組み面積は約20ヘクタール、地下水量は約200万トンを見込む。TSMC子会社のJASMは、半導体製造に使う水量を上回る地下水かん養を目指すが、これを機に米など地場産農産物の愛用につなげたい。
工場周辺は畜産に加え、水田や野菜の栽培も盛んだ。経済安全保障へ、国はTSMCへの支援を惜しまない考えだが、同時に命を支える食料安全保障への目配りも重要だ。工業を優先し、農業を犠牲にしてはならない。農業と工業が共存する政策が必要だ。