[論説]窮地の果樹農家 新技術導入で経営守れ
愛媛県は19日、果樹カメムシの多発を受けて全国で14年ぶりとなる警報を発表した。さらに26日には鳥取、広島の両県でも警報が出た。
特に愛媛県では果樹カメムシの誘殺数が平年の90倍に上るほど異常な状況が続いている。被害を受けた園地は全体の75%に上る。ただ、JA関係者によると最も被害がひどかったのは春から初夏にかけてで、産地からは「警報を出すのが遅い」という声も出ている。
加えて、6月中旬から続く異常高温でかんきつの生理落果が進む恐れがあり、樹勢の維持へ基本管理の徹底が重要となる。昨秋は降水量が極端に少なく、農家はかん水作業に追われた。収穫されたミカンも小ぶりなものが多く、良食味だったものの、収量が減って落胆した農家は多い。農家の高齢化は進んでおり、傾斜地での脚立やはしごを使った作業は、常に危険と隣り合わせだ。誰もが安全で安心して作業ができる環境整備と技術の導入が欠かせない。
県立南宇和高校農業科は、低樹高栽培の実証を進めている。地面に近い枝にも日光が当たるよう樹高や密度を下げ、剪定(せんてい)や収穫にかかる時間を大幅に減らした。同校果樹班の研究によると、従来は1本の木を剪定するのに1時間かかっていたが、低樹高にすると15分程度まで削減できることが分かった。収穫にかかる時間も、従来の4分の1の15分程度となり大幅削減につながった。2024年度は、農家が集まる講習会でも低樹高栽培を紹介、導入を呼びかける。こうした技術の普及を急いでほしい。
瀬戸内海・興居島の若手女性農業者組織「しとらす」は、かんきつ園での肥料散布にドローンの活用を研究する。島しょ部の園地は急傾斜地が多く、重い肥料袋を運搬するのは女性や高齢者にとって大きな負担になるためだ。ドローンは事前測量で自動操縦ができ、1回の飛行で20キロの肥料を約20秒で散布できる。支援する県中予地方局は「作業環境の改善や女性が活躍する場面をつくりたい」という。
極端な高温や豪雨による気象の「極端現象」が各地で頻発している。農家の高齢化も加わり果樹栽培は年々、難しくなる。環境の変化に適応した的確な技術指導や、コストを反映した適正価格の実現も待ったなしだ。国全体で農業を支える必要がある。