[論説]認知症の行方不明者 地域の見守る力を強く
警察庁によると認知症やその疑いが原因で行方不明になった人は1万8121人(2024年)。前年より918人減少したが、高水準で推移している。このうち、亡くなった状態で発見された人は491人。今回初めて死亡者の発見状況を分析したところ、約8割が、いなくなった場所から5キロ圏内で亡くなっていたことが分かった。
同庁は、早期発見に向けて行方不明となった場所の周辺を中心に探す必要があると指摘する。具体的には、衛星利用測位システム(GPS)機器で位置情報を早く把握することが効果的とし、認知症の人の靴などにGPS機器を取り付け、早期発見・保護につながったケースもある。
こうした対策に加えて大切なのは、地域全体で認知症の人の情報を共有し、見守る力を強めることだ。5キロ圏内といえば生活圏内だ。家族、警察の他に地域の支援が欠かせない。それにはまず、住民一人一人が認知症について理解を深める必要がある。
そうした活動に力を入れているのが、滋賀県野洲市の「オレンジガーデニングプロジェクト」。世界アルツハイマー月間の9月に向けて、認知症啓発のシンボルカラーであるオレンジ色の花を咲かせる活動は各地に広がっている。
同市では22年から始まり、管内のJAレーク滋賀などが苗作りに協力する。マリーゴールドやキバナコスモスの苗を学校や福祉施設など市内各所で栽培。プロジェクトを通して認知症への啓発活動が進み、サポーター養成講座の受講者が増える効果も表れてきた。同JAは「農業ならではの社会貢献ができるのはうれしい。認知症の人に寄り添いたい」と手応えを話す。
認知症を理解するには、入り口は多彩なほどいい。JAグループは約20万人のサポーターを育成し、助けあい組織などが中心となって認知症の人や家族、住民が集う「オレンジカフェ」や、接し方を学ぶ紙芝居や寸劇、進行を遅らせる予防体操の普及に力を入れている。
こうした活動を通して認知症への知識を身に付けよう。それが認知症の人や家族への声がけにつながり、行方不明の防止や早期発見の一助となるだろう。認知症になっても安心して暮らし続けられる社会は、JAをはじめ地域住民の支え合う力を強めてこそ、実現できる。