[論説]適正価格へ法制定 努力報われる所得必ず
今回成立したのは食料システム法。全品目の売り手と買い手に対し、価格交渉へ誠実に臨むよう努力義務を課し、取り組みが不十分な事業者には、国が指導や勧告などを行うことが柱。国が指定した品目は、農家が価格転嫁の根拠にできる「コスト指標」を作成する。農水省は来年4月の全面施行へ、指標の対象品目など制度の詳細を詰める。
ウクライナ危機を発端に国際情勢は不安定化し、生産資材価格の高騰が長期化する一方、農産物価格は低迷し、農業経営は厳しい状況が続いてきた。今でこそ店頭での米価格は上昇しているが、政府の介入で需給は緩和し、価格は大幅に下落するのではないかと産地の不安は高まっている。希望を持って農業を続けていくには、政府による所得補償と適正な価格形成が欠かせない。国は実効性ある仕組みづくりを急いでほしい。
そのためには、物価高で経済的な負担が増す国民からの理解を得ることが欠かせない。農畜産物の価格上昇が消費減少を招くとして、小売りなどからは慎重論も根強い。
中小企業庁が20日に公表した、価格転嫁の実施状況調査によると、コスト上昇分を価格に反映できた割合を示す価格転嫁率で、「農業・林業」は3月時点で45%だった。前回調査(昨年9月時点)より3・8ポイント上昇したが、業種別では30業種中25位だった。
ただ、米価上昇がきっかけとなり、国民が農業に関心を寄せるようになった。農畜産物の「適正価格」を考える機運も盛り上がっている。今こそ議論を前に進める時だ。
乳業メーカーで動きが出ている。明治、森永乳業、雪印メグミルクの大手3社は生乳取引価格を引き上げ、7月以降、牛乳・乳製品の値上げに踏み切る。牛乳の値上げは2023年以来で、酪農家の戸数が1万を割れた中、生産基盤の維持に向けて、大手がそろって適正な価格形成を目指す。こうしたケースを他の品目にも広げたい。
日本農業新聞「農家の特報班」が、小泉進次郎農相に力を入れてほしい政策についてアンケートをしたところ、トップは「農家への所得補償」「生産者と消費者双方が納得できる米の価格形成」が並んだ。「米担当大臣」を自称し、米価引き下げへ全力投球する小泉農相だが、農畜産物の適正な価格形成の実現にこそ手腕を発揮してほしい。