[論説]酷暑下の米作り 品質向上は穂肥が鍵に
気象庁が発表した3カ月予報によると、8~10月は全国的に暖かい空気に覆われ、気温は高くなる見込みだ。昨年は史上最も暑い8月で、特に東北では気温が平年と比べて5度以上も高かった。平年より4度高かった米どころの新潟県では、1カ月の降水量が10ミリ未満の観測地点が相次ぎ、干ばつに苦しんだ。米の作況指数は、鳥取県と並ぶ全国最低の95の「やや不良」となり、収量も前年実績比で5%以上落ち込んだ。
こうした事態を受け、新潟県は要因の分析を進め、米の上位等級が多かった農家は、穂肥が多い傾向にあることが分かった。2024年産の技術対策には、新たに3回目の穂肥を加えることを盛り込み、周知している。
課題は、穂肥を水田に施す方法だ。新潟の「コシヒカリ」の場合は、7月末までに3回目の穂肥が終わる見通しだが、酷暑の中、肥料を入れて数十キロある背負いの動力散布機で数ヘクタールを歩く労力は計り知れない。
そこで活用したいのが、ドローンや農機による穂肥の散布だ。ドローンで散布する場合には、粘性があって葉に付着しやすく、稲の吸収効率が高い液肥が登場しており、大幅な労力軽減につながっている。梅雨時期の作業が多いため雨や風の状況に影響される恐れはあるが、上空から撮影した稲の生育情報を基にした可変施肥で的確に対応できるメリットがある。
田んぼの中にトラクターが入って粒状の肥料を散布する方法もある。「トラムライン」という考え方で、全地球衛星測位システム(GNSS)を活用した自動運転で、田んぼの中に通路を設定する。乾田直まきした稲が生えている部分をなるべく傷めないよう最低限のルートで通りながら、トラクターに付けた可変施肥機で穂肥をまく。導入した農家は「踏んでしまう稲の減収分は5%。それ以上に穂肥の効果があり、安全に作業できる」とみる。
今年は米価が上昇基調にあり、良い米を作ろうと力が入るあまり、熱中症で倒れてしまっては本末転倒だ。新しい技術を使い、全てを完璧に手がけようとしない、柔軟な考え方を取り入れる必要もあるのではないか。
今後は水管理が重要な時期に入る。自動のシステムを活用しながら、安全を最優先に品質向上につなげよう。