[論説]遠のく核廃絶 英知尽くし暴走止めよ
今日は79回目の広島原爆忌。「ヒロシマ・ナガサキ」の惨禍を最後にすることを誓う日である。だが、核廃絶の願いを踏みにじるような蛮行が世界で繰り返されている。
ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領は、「核兵器使用」をちらつかせながら、西側諸国への威圧を強めている。昨年11月には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を撤回し、国際社会に衝撃を与えた。同条約は1996年に採択され、ロシアは2000年に批准した。足並みをそろえていただけに今回の撤回は、核軍縮や核不拡散に対する背信行為であり容認できない。国際社会は、監視の目を強め、条約への早期復帰を求め続けるべきだ。
現在の核保有国は、米国、ロシア、英国、フランス、中国の5カ国。核拡散防止条約(NPT)で保有が認められている。加えてインドとパキスタンは核兵器保有を宣言。イスラエルも事実上の保有国と見なされる。そのイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻も核兵器の脅威を高める。北朝鮮は、国連安保理決議に違反する形で核実験を繰り返し、核・ミサイル開発を対米戦略などに使っている。
新たな「冷戦」ともいえる軍事的緊張の高まりの中で、核抑止論も勢いを増す。昨年の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)では、核軍縮に向けた「広島ビジョン」を出した一方、核兵器の抑止力も是認した。さらに日米両政府は今年7月、「拡大抑止」強化で合意。日本が米国の「核の傘」で守られていることを誇示することで、中国や北朝鮮への軍事的けん制を強める狙いがあると見られる。
被爆者団体などが主張するように、核抑止力に依存しない安全保障と平和外交の道を探るべきだ。それにはまず、唯一の戦争被爆国として核兵器禁止条約に参加すべきではないか。そうでなければ、いくら「核兵器のない世界」を訴えても説得力を持たない。
昨年末の核兵器禁止条約締約国会議の政治宣言でも、核抑止論が核拡散のリスクを高め、核軍縮の進展を阻害していると警告した。核抑止の均衡が崩れ、使用を許せば人類は危機にひんする。
人間を殺し、大地を汚染する核兵器は、食料安全保障とも相いれない。食料安保は、平和が大前提である。核廃絶へ、今ほど人類の英知が試されている時はない。