[論説]農から食まで脱炭素 価値が連鎖する社会に
10代、20代の若者グループが8月、火力発電事業者を相手に、二酸化炭素(CO₂)の排出量削減を求める訴えを起こした。地球温暖化による気候変動で、命の危機にさらされているとの理由だ。若者の未来を考えれば、農業も温暖化対策に積極的に取り組む必要がある。CO₂やメタンガスなどGHGの排出を抑える脱炭素化技術は、農業だけで取り入れるのではなく、最終の消費者に届くまでの全体の流れとして捉えたい。
いわゆる「バリューチェーン(価値連鎖)」である。原材料の生産から加工、流通、最終的に消費者に届くまでの全体の流れを指す。チェーン全体でGHG削減に取り組むことで、効果も、消費者にアピールする訴求力も高まり、利益にもつながる。
JA鹿児島県経済連は、畜産農家が減らした温室効果ガスの削減量を、排出権としてクレジット化し、市場で権利を販売する取り組みを始める。これは一つの参考になる。
個々の農家がGHGを減らしても、量は少ない。JAのような、それをまとめる機関が必要になる。また、排出を抑制する技術の中には、生産性向上につながらず、むしろ落とすものもある。これでは農家は導入に二の足を踏むだろう。負担とリスクをチェーン全体で受け止めれば、技術は浸透しやすい。
食品製造などの加工業界も、利用する原料がどのように生産されたか、配慮するようになった。GHGを抑えて栽培した原料だけを仕入れることも、今後は考えられる。
例えば、胃から出るげっぷを減らす飼料で飼育した牛。この牛から搾乳した生乳を、特定のプラントに売る。水田からのメタン発生を抑えた農法で栽培した酒造好適米を集め、酒造会社に出荷する。乳業会社も酒造会社も、クレジットを買うことで農家に利益を還元できる。工場もGHG排出を減らせば、最終製品の付加価値が上がり、意識の高い消費者にアピールできる。
こうした一連の流れを築くには、行政の力も欠かせない。排出権の売買には個々のGHG削減技術に対し、公的機関が認めた評価が欲しい。地方自治体には、技術の普及と生産者の組織化支援を求めたい。地域内の工業や商業の意向調査や、農業者とのマッチングの場の創出支援などを通し、環境に負荷をかけない一連の流れを作り出そう。