[論説]農山村の植物資源 発想転換し価値向上へ
ぺんぺん草として知られる野草のナズナは「タラスピ」として流通し、生花店ではおしゃれなブーケとなる。穂を楽しむイネ科の植物は「グラミネ」として花束に動きを出す素材として重宝される。消費者の自然志向を捉え、名前を変えて「野趣あふれる草花」として販売する。生産者や生花店の戦略が奏功した。
食材の分野でも、日本で古くから栽培されてきた植物を見直す動きも出てきた。食用ホオズキは、「ゴールデンベリー」「オレンジチェリー」という品種名を前面に出し、新感覚のフルーツとして提案する動きがある。見た目は黄色いミニトマトに似ており、南国フルーツのような味がする。長野県白馬村のリゾートホテルでは、地元産を使ったパフェが登場した。欧米では栄養価が高いスーパーフードとして注目が集まる。国内では輸入ドライフルーツの流通が多いが、国産の生鮮果実を売る追い風にしたい。
かつて養蚕用だった桑の実も、「マルベリー」と名乗ることで、買う側の印象が違ってくる。商品に新旧の名称表示すれば、若年層には目新しく、年配層には懐かしさを感じ魅力的に映る。
日本固有種の香木で高級ようじの原料となるクロモジは古くから利用されているが、最近は、和紅茶とブレンドして爽やかな香りを添えた商品として島根県の土産品になるなど用途が広がる。大手酒造会社も、人気の高まるクラフトジンの風味を決める原料として打ち出している。
近くの野山を歩いてみてほしい。自生種があれば栽培適地の証しだ。露地で低コスト生産できる利点もある。貴重な種を守ると同時に、選抜育種や交配で生産性を高めたい。サルナシは海外では「ベビーキウイ」として販売されている。三重県は、近縁種のシマサルナシの自生種から味の良いものを選抜して「みえ紀南蔓(つる)1号」として品種登録した。糖度が高く酸味も少ない上、病害虫に強く、獣害にも遭わないという。省力栽培できる果実として複合経営にもってこいだ。
直売から一歩踏み込み、インパクトを与える工夫をしたい。フラワーデザイナーを呼んで野の花を生ける様子を動画で発信したり、菓子職人に山の果実を発色の美しいスイーツにしてもらったり。足元の資源を生かし、発想の転換で新たな需要を開拓しよう。