[論説]石破新総裁に望む 農業農村 立て直し急げ
自民党派閥の政治資金パーティーの裏金疑惑に端を発した「政治とカネ」の問題は、国民に深刻な政治不信を引き起こした。カネで政策がゆがめられていたとすれば、民主主義の危機といえる。
自民党は心から反省したのか。総裁選を通しても本気度は伝わってこなかった。石破氏は、政治資金のルール見直しなどを表明したが、説得力に欠けた。企業献金の廃止を含めた政治資金規正法の再見直しや選挙制度の改善など、抜本的な政治改革に取り組むべきだ。国民の目は厳しい。
新総裁は新しい総理大臣となる。国会で政治改革や防衛、外交、経済などの政策方針を分かりやすく説明することが求められる。その上で、政権の正当性や国民の信任を得るため、判断材料を提示し信を問うべきだろう。
安倍、菅政権は、新自由主義に基づく規制緩和を推し進めた結果、農業の生産基盤は弱体化し、高齢化と担い手不足は一層、加速した。「新しい資本主義」を打ち出した岸田政権でも、その流れを変えることはできなかった。
政府が掲げる食料自給率目標を一度も達成しないのに、誰も責任を取ろうとせず、主食の米や酪農畜産政策は迷走する。生産現場の悲願である適正な価格転嫁に向けた具体策も見えない。輸出増大と集約化による生産性向上ばかり求めるようでは、農業者の信頼は決して得られない。
石破氏は総裁選で、中山間地域、過疎、離島などの条件不利地域を含め、農林水産業に携わる生産者が安心して再生産できる環境を構築すると強調した。地方を重視する姿勢が、多くの党員票の獲得にもつながったのだろう。その期待に応えなければならない。
課題は実行力だ。農業、農村の崩壊を食い止めるために、残された時間は少ない。改正食料・農業・農村基本法で打ち出した食料安全保障と農業基盤の強化に向け、実のある基本計画を策定する必要がある。予算を増額し、農業政策と車の両輪となる農村政策の充実を急がねばならない。
さらに重要なのは、生産現場の声に、耳を傾ける謙虚な姿勢だ。地震と豪雨の二度の災害に見舞われた能登地域の再生を含め、農業、農村の立て直しを進めてほしい。今こそ東京への一極集中から地方分散へとかじを切るべきだ。
石破新総裁には、持続可能な農業、農村の再生へ、強力なリーダーシップを求めたい。