[論説]遅れる地域計画 体制を強化し作成急げ
国内の農業は、農業者の高齢化が加速し、農地を耕す人をどう確保するかが大きな課題となる。農水省の見通しでは、米などの耕種農業の農業経営体は、2020年の108万から30年には54万に急減する。経営規模の拡大が進まなければ、約3割の農地が利用されなくなる恐れがある。同省は、目標地図の作成に当たり、10年後の耕作者を明確にし、少なくとも「400万ヘクタールの農地は確保したい」(経営局)考え。改正農業経営基盤強化促進法では市町村に対し、来年3月までの策定を義務付けた。
目標地図作成の対象となる地区は、全国で2万2000ほど。このうち7月末までに作成できたのは3%にとどまり、「10年後は分からない」と話す耕作者も多く、手間取っている。
「(地図作成は)これから本格化する」(同局)とするが、耕作者がいなくなるという農業の危機に対して、対応に甘さもあったのではないか。
同省は、耕作者が不明の農地は、名前を書き込まない「白地」のまま認め、その実態を可視化する方針だ。その上で、「白地」解消の誘導策として、40以上の補助事業の採択と関連付け、来年度以降も「白地」解消を促したい考えだ。株式会社などの法人参入も視野に入れる。
補助事業の採択に目標地図の作成を関連付けることに対し、現場からは「一方的な農地の集約・集積につながる」と警戒する声も上がる。地図の完成は、地域全体の理解と協力があってこそ。同省は各自治体に対し、丁寧に説明する必要がある。
耕作者を確保する緊急性は理解できるが、規模拡大一辺倒の視点では、中山間地域を含め、農業を維持することは難しいとの指摘もある。「地域衰退」(岩波新書)の著者で、埼玉大学学術院の宮崎雅人教授は「大規模化は農村を衰退させる可能性がある」とし、「きちんと地域で話し合いを行い、小規模農家も含めた計画作りが重要」と指摘する。重要な視点である。
誰が農地を耕し、どのような農業を目指すのか。多様な担い手を含め、地域全体で考えなければ、立ち行かなくなる。耕作する農地が減っては、国民の食を支える食料安全保障の確保には応えられない。
市町村の担当者の体制強化を含め、手遅れにならないように、地域の話し合いを急ぐ必要がある。