
横石知二
よこいし・ともじ
1958年徳島市生まれ。徳島県農業大学校卒。上勝町農業協同組合(現東とくしま農業協同組合)を経て09年(株)いろどり代表取締役。07年世界を変える社会起業家100人に選出される。12年9月取り組みが映画化され「人生いろどり」上映。
農産物の価格が高騰すると、マスコミ報道では「消費者の台所を直撃」「高くなり過ぎて買い控えする人が急増!!」といった内容がいつも報道される。本当にそうだろうか。生産コストが上がっているのに、何を基準に高いというのか。こういった報道は、設定そのものがおかしいと気が付いてもらいたい。
米の価格は、昨年より高騰しているといわれるが、そもそもこのくらいの価格でなければ生産者はやっていけないし、後継者が魅力を感じる仕事にはならない。生産にかかるコストを基準に価格を設定するのが当たり前である。この現実をしっかりと消費者に伝えなければいけない。
易しい伝え方重要
「昨年より1俵(60キロ)がいくら高い」という業界用語は、消費者は全く分からないし、生産者はもうかっていると勘違いしてしまう。自分も、魚が何トン水揚げと聞いて、末端価格がどのくらいになるか知る由もない。都会の消費者にとって情報は、一部のマスコミからの報道に限られる。だからこそ、より身近で分かりやすい伝え方をすることが重要なのである。
一例で言えば、米はこれだけ上がっても茶わん1杯50円もいかない。高いと思う人がどれだけいるだろうか。他の商品と比較するとよく分かる。缶コーヒーは1本150円。3杯の米が食べられる。こういった伝え方をしていくと理解してもらいやすくなる。
安いと食べ残しが当たり前になっているが、米が高くなってくると、無駄にしない食べ方も子どもたちに伝えられる。私の子どもの頃には、食べ物を粗末にすることは絶対にしては駄目と厳しく親に教えられた。
新しい消費構造へ
一部のマスコミ報道に踊らされるのではなく、しっかり適正価格を伝えていくこと。他の商品に比べると、農産物の価格はまだまだ安過ぎる。産直市などでも、お安いからお得ですよという時代はもう終わった。そんなことをしていたら後継者が育つわけがない。
最近、スーパーなどのバイヤーがどんどん産地に出向くようになってきた。この流れは、数年後に商品が集まらなくなると危惧しているからだ。産地がどのスーパーに出すかを選ぶ時代が来るのは間違いない。生産者は、自分が作った物の適正価格がいくらなのか把握し、自信を持って伝え販売してもらいたい。
これからは、消費宣伝ではなく、限られた商品をきっちり売る時代になった。価値観と価格決定の取り組みこそ、新たな時代に求められる手法だと確信する。20年以上続いた、安い物がいいという日本の消費構造から早く抜け出さなければ、日本農業の未来はない。