[論説]天皇杯受賞者から学ぶ 利他的な経営広げよう
日本農業新聞は「天皇杯’24 トップの流儀」の連載で、農業分野で国内最高の栄誉である天皇杯を24年度に受賞した経営が、苦難をどう乗り越え、取り組みを展開させてきたのかを追った。目立ったのは、自らの経営の発展の追求だけでなく、産地、地域全体を支えようという利他的な姿勢だ。
農産・蚕糸部門で天皇杯を受賞した滋賀県近江八幡市のイカリファームは、北海道で主に作られるパン向け小麦「ゆめちから」を県内で先駆けて栽培。パンの膨らみに関わるタンパク値を高める施肥管理を試行錯誤の中で確立させた。30戸超の農家と連携して栽培方法を積極的に共有、コンビニ大手との取引も実現させた。3年間の栽培試験を行うことで国の交付金を受けられるようにするなど、地域の小麦経営を下支えしている。
会社の理念に「地域と進む6次産業化」を掲げているのが、多角化経営部門で受賞した長野県松川町のなかひら農場だ。数億円をかけた果物のジュース製造機は、自社の果実だけでなく、他の農家からも少量でも受託し製造する。地元JAの直売所には、多彩なりんごジュースが並ぶようになり、産地の魅力を発信する。自治体と連携し、地域おこし協力隊に果樹農家として独立するための研修を立ち上げるなど、担い手確保にも貢献している。
むらづくり部門で受賞した、えーひだカンパニーは、島根県安来市の中山間地域の住民らが立ち上げた株式会社。高齢農家らから農作業を受託したり、農産加工品を開発、販売したりして地域を支える。安心して暮らし続けられるよう、車での住民の送迎や移動販売車の運行なども展開。同社に参画する住民は、休日や仕事が終わった後など余暇の時間をそうした活動に充てている。地域の人たちの幸せをそこで暮らす人たち自らが追求する取り組みは、地域づくりのヒントになろう。
地域外からの参入者らを部会員として育てている福島県のJA会津よつば昭和かすみ草部会、地域の稲作農家らと連携し飼料自給率を高める山形県の蔵王ファームなども、天皇杯に輝いた。
受賞者の取り組みは、担い手の減少や自給率の低迷、地方の衰退など農業・農村が抱える課題を解決する糸口となる。地域全体を見据えた経営感覚を取り入れたい。