[論説]有機農業の拡大 育成と集約、販路が鍵
2022年の世界の有機農業の栽培面積は9637万ヘクタールと、15年前の約3倍に拡大した。一方、日本は21年度が前年度比5・6%増の2万6600ヘクタールと、耕地面積に占める割合は0・6%にとどまる。1戸当たりの耕作面積が狭小のため、取り組みが広がりにくいのが一因だ。有機農業の拡大には、農薬の飛散や病害虫のまん延を防ぐなど慣行農業者の理解と協力が欠かせない。地域内で有機農家と慣行農家それぞれが農業を続けられ、共存できる環境整備が求められている。
参考になるのが茨城県だ。常陸大宮市は、昨年12月に全国で初めて有機農業を促進する協定を締結し、地域ぐるみで有機農業の団地化を進めている。有機農家と慣行農家が、緩衝地帯の設置など守るべき栽培管理の方法を定めた。同市はJA常陸と協力し、27年度から市内の小中学校15校の給食の米(37トン)を全て有機米にする方針を掲げるなど、販路も確保する。
石岡市のNPO法人アグリやさとは、耕作放棄地を整備し、新規就農研修農場「朝日里山ファーム」を開設、有機農業の新規就農者を育てている。卒業生はJAやさとの有機栽培部会に所属し、体制を構築。新規参入者を1年に1家族が受け入れ、2年間の研修後、地域内で独立する仕組みだ。08年の法人設立以降、7家族が就農した。担い手を育て、独立できる環境をつくることが重要だ。
温暖化が進む中で、有機農業はいまや世界の潮流となっている。台湾で4日まで開かれていた有機農業の世界最大規模の会議「有機世界大会(OWC)」では、世界61カ国・地域から研究者や農業経営者らが、有機農業の持続的な発展を探った。台湾では学校給食での有機農産物の利用が拡大し、インターネット上で販路を広げているという。
日本では1人当たり年間の有機食品消費額は、欧米諸国と比べて低いものの、市場規模は拡大傾向にある。農水省によると22年の市場規模は2240億円と、5年前と比べ2割増えている。
同省は今後、有機農業の面積割合を全農地の25%に拡大する目標を掲げるが、どう実現するかが問われている。まずは25年度予算を拡充し、有機農業の普及を積極的に進めるべきだ。有機農産物の学校給食への利用も促進し、できるところから始めよう。