[論説]畜酪対策 議論大詰め 「危機」踏まえた決着を
畜産・酪農ともに厳しいのが飼料高騰だ。20年の平均価格を100とした物価指数は直近10月で136・8。最も高かった22年は149・8で、ウクライナ危機以前の5割高だ。飼料代は畜産・酪農経営の40~60%に上り、農家所得への影響は大きい。
頼みの綱は、飼料価格の高騰時に差額を補填(ほてん)する配合飼料価格安定制度だが、直前1年間の価格と比較して補填額を算出するため、価格が高止まりすれば、制度の効果が薄れると指摘がされてきた。ここ数年、制度に加えて政府の緊急の支援対策で乗り切ってきたが、抜本的な制度改革に踏み込むべきだ。
特に、手当てが必要なのが酪農だ。飼料高騰に加え、副収入となる子牛の市場価格が下落、コロナ禍の消費減による生乳生産抑制など負の循環が続いてきた。指定生乳生産者団体に出荷する酪農家の戸数が、初めて1万戸を割ったのは、その結果だ。1万戸割れは交流サイト(SNS)でも注目され、「牛乳が飲めなくなる」「酪農家を助けて」との書き込みが相次いだ。
酪農情勢の厳しさが取りざたされたことで、北海道の研修牧場からは「新規就農の希望者が集まらなくなるのではないか」と心配する声も上がる。現在の酪農家だけでなく、将来の担い手も減る事態は避けなければならない。
肉牛も、コロナ禍や物価高による消費低迷の影響を受けている。子牛の市場価格は不安定となり、7~9月期には黒毛和種で49万8900円と、11年ぶりに50万円を切った。子牛を供給する繁殖農家が影響をもろに受けた格好だが、言うまでもなく繁殖農家がいなければ肥育経営は成り立たない。日本の肉牛生産全体の危機である。
それだけに、肉用子牛の価格下落時を支える「肉用子牛生産者補給金」や、バター向けなどの生乳に支払う「加工原料乳生産者補給金」は、危機打開を意識した水準に設定すべきだ。算定ルールはあるが、酪農畜産の生産基盤をこれ以上弱体化させないためにも、国による政治的配慮を求めたい。
改正食料・農業・農村基本法で、食料安保は柱の一つとなっている。食卓に欠かせない牛乳・乳製品、和牛生産の危機は「農政の憲法」の危機でもある。政府・与党は、生産現場の声に耳を傾け、誠意をもって応えてほしい。