[論説]国際協同組合年とJA つながる力で未来開こう
国連が貢献を評価
今年のテーマは「協同組合はよりよい世界を築きます」。それほど世界は今、混乱と混迷の中にある。国連総会決議は、貧困と飢餓の解消、食料安全保障、持続可能な食料システムの構築、社会的包摂、女性の地位向上、気候変動への対応などに協同組合が貢献していることを評価した。
国連が30年を目標に進める「持続可能な開発目標(SDGs)」とも合致する。国連は「2度目のIYCはSDGs達成に向けた歩みを加速する」(経済社会局)と期待する。国際協同組合同盟(ICA)のグアルコ会長も2度目のIYCが偶然ではなく「協同組合が変化する現代の課題を克服し、力を合わせよりよい世界を築くことを示してきたからだ」と自負する。
食と農を支える力
今年は、第30回JA全国大会決議の実践の年。「組合員・地域とともに食と農を支える協同の力」という統一目標は、IYCのテーマと重なり合う。キーワードは「総合力」と「つながる力」だ。
その好事例が山形県のJA庄内みどり。「循環が地域を強くする」を合言葉に、生消交流、耕畜連携、太陽光発電によるエネルギーの地産地消、移住促進など地域振興プロジェクトに取り組む。「いろんな人と手を携え、食料基地を守りたい」と田村久義組合長。
住民が共に出資して働く協同労働も広がる。労働者協同組合法が施行して2年余り。設立団体は110法人に上る(24年10月現在)。住民が主体となり「地域づくり」と「仕事おこし」をつなぐ働き方は、協同組合の原点である。
協同労働の先駆け、広島県の「アグリアシストとも」(17人)は、JA広島市と連携して、農地の草刈り、荒起こし、農機具整備などを事業化、「わがまち農業応援団」を名乗る。メンバーはJA組合員だけに「農業関連のお困り事はわしらに任せんさい」と頼もしい。「JA、社協、福祉施設、大学などを巻き込んで、地域に密着して活動するオンリーワンの存在でありたい」と事務局長の上垣内保之さんは言う。
農福連携は、支え合う力で広がる。取り組み主体は、この4年で約3000件増え、約7000件になった。鹿児島県で「花の木農場」を運営する社会福祉法人「白鳩会」の中村隆一郎理事長は「その人らしさを柔軟に受け止められるのが農業」だと、農の包摂力を実感する。
理念を基本法に
IYCは、日本の協同組合にとっても「協同組合らしさ」を再確認し、存在意義を発揮する好機だ。社会の変化に合わせ、ICAが1995年に採択した協同組合声明(定義や価値、原則)の見直し論議も進む。80年のICA大会でレイドロー博士が提起した「信頼」「経営」「思想」という協同組合が抱える三つの危機は、むしろ深まる。
協同組合の歴史は平たんではない。実態を無視した財界による農協たたき、規制改革の名の元で強行された農協改革などは記憶に新しい。いわれのない攻撃や政治の介入を許さないために、不断の自己改革、学習と実践が欠かせない。
研究者らが協同組合基本法の制定を提言し、広範な議論を呼びかけている。貧困と格差の是正、食料安保の構築、地域貢献、環境との調和などの社会課題と、協同組合の今日的役割を「共通理念」に落とし込むことは意義深い。「法制度の具体化へ向け現場で議論する時だ」と関係者。協同組合に携わる一人一人が当事者意識を持とう。
「“狂気”の時代にあって、協同組合こそ“正気の島”になろう」(レイドロー報告)と誓って間もなく半世紀。今こそ歴史を学び、新たな価値を発信する時だ。より良い社会を築き、未来に手渡すために。