[論説]日本酒の輸出戦略 個性と革新で市場狙え
日本酒や焼酎・泡盛の輸出は、日本食の人気を背景に増加。2024年上半期の日本酒輸出額は204億円で前年同期比2%増、焼酎・泡盛は8億5000万円と同7%伸びている。国が25年を目標とする農林水産物・食品の輸出額2兆円の達成へ、一層の期待がかかる。
輸出の増加に向けては、業界で多様な工夫が進む。日本酒は開封後に酸化すると風味が落ちるため、飲み切りサイズの小瓶や缶入りの他、レトルト食品のようなパウチ加工などで出荷するメーカーもある。小容量で販売価格を抑え、容器を軽くすることで輸送コストの削減や持ち帰りやすさを売りにするものだ。
課題は、地域ごとに個性があり複雑な日本酒の味わいを、どのように分かりやすく伝えていくかだ。各地では、訪日外国人らを酒蔵に案内して、醸造を学びながら酒に親しんでもらう「酒蔵ツーリズム」の動きが広まる。
好みの味を見つけてもらうための手段としては他に、日本酒ソムリエとしての人工知能(AI)の活用に注目が高まる。茨城県では昨年末、アニメ調の架空のキャラクターと組み合わせたAIが接客して地酒を紹介するサービスを試験導入した。AIの利用では英語で対応が可能な日本酒紹介サービスもある。常に詳しい人が対応するのが難しい海外でも裾野を広げる可能性を秘めている。
独自性のある商品の売り込みも求められる。アルコール消費の多くはビールなど炭酸ガス入りの酒。シャンパンのように自然発酵した発泡性の日本酒は、海外でも需要が見込める。海外でのオーガニック人気を受け、「有機酒類」の拡大を後押しすることも重要となる。
輸出に関しては23年の夏、有機JAS認証を取得した酒類をカナダで「有機」と名乗って販売できることで合意。その後、台湾でも可能となった。他の多くの国・地域では有機認証を受ける必要があるが、さらなる広がりを期待したい。
大きな市場である米国では、米大リーグ大谷翔平選手の活躍で、所属するドジャースタジアムVIPシートに日本酒や日本食が加わることでも話題となった。
大切な場での楽しい酒席の継承へ、日本酒や焼酎・泡盛の生産、消費の安定へ、輸出による販路拡大を目指そう。