[論説]新たな基本計画の策定 高い自給率目標掲げよ
新たな基本計画は、食料自給率や品目ごとの生産目標、輸出額などに加え、初めてインバウンド(訪日外国人)の消費や外食、小売りによる海外展開の効果も評価する方針で、多様な目標値が出そろうことになる。
だが、重視すべき食料自給率は2023年度は38%(カロリーベース)で、10年度以降、14年連続で40%を割り込む。基本計画の自給率目標が達成されたことは過去に一度もない。
農水省は、30年には農業経営体が20年に比べて半減し、耕作面積も同35%減ると試算する。肥料や飼料などの長期高騰が経営難に追い打ちをかけ、日本の食と農は危機的な状況に陥っている。反転攻勢へ手厚い農業施策の展開が求められる。
自民党は昨年、新たな基本計画や25年度予算編成に関する提言をまとめた。この中で25年度からの5年間を「農業構造転換集中対策期間」と位置付け、農業予算の増額や資材高対策、中山間地域等直接支払いなどの日本型直接支払いや畑作物の直接支払交付金の見直し、農地の総量確保などを求めた。自給率目標を一度も達成できなかった反省を踏まえ、予算案以上の思い切った措置で農家の手取りを増やし、経営に希望を持てる強力な政策を総動員すべきだ。
現行の基本計画の食料自給率目標は45%だが、昨年の衆院選公約で立憲民主党と国民民主党は50%、共産党は60%と野党は総じて50%以上を求めている。新たな基本計画の策定に当たっては、これまでの施策の検証に加え、自給率目標の設定が争点となる。
各地で紛争が続く国際情勢に照らし、食料の多くを海外に依存する日本の危うさは露呈している。2月で3年になるロシアによるウクライナ侵攻では、両国が小麦やトウモロコシなどの世界有数の輸出国であることが、価格高騰の引き金となった。
新たな食料・農業・農村基本法が、輸入依存からの脱却に向け、食料安全保障の確保を柱に据えたのは、こうした情勢の変化を踏まえたものであり、食料自給率の向上は急務と言える。
たかが数値目標ではない。基本計画は基本法に基づき策定するもので、数値目標は国民への約束だ。政府にはその責務が伴う。目標達成へ、大幅な予算増と農家手取りの増額をセットで実現すべきだ。