切り花の家庭需要 定着・拡大 業界一体で
新型コロナの流行が昨年始まってから葬儀や結婚式などの業務用需要が大幅に減り、切り花価格は低迷した。緊急事態宣言が初めて発令された昨年4月、日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は過去5年間で最低の1本40円台に落ち込んだ。
産地では出荷調整に追われる一方、ネット販売や地元販売などを通じた「応援消費」が高まった。しかしコロナ禍の影響は大きかった。農水省によると、2020年産の切り花の出荷量は、前年産比7%減だった。
価格は徐々に回復し、今年8月の日農平均価格は1本60円台と過去5年平均に近い水準になった。価格回復の一助といえるのが、家庭・個人需要の拡大だ。花店やスーパー、直売所での販売に加え、サブスクリプション(定額課金、サブスク)を使った配送も広がった。盆や彼岸などの物日だけでなく、花を楽しむ生活が浸透したことが大きい。
家庭・個人需要の増加でニーズにも変化が生じている。従来は業務用に使える大輪や大きなサイズが重視されていた。しかし家庭・個人向けの販売が増え、小さいサイズが求められるようになった。
岐阜県の中山間地で小菊を栽培する農家は、コロナ禍の前は2L、Lの需要が大きかったが「現在は、より小さいM、Sといった(スーパーなどの)バックヤードで束ねるだけで販売できる、手間のかからないサイズを求める声が多くなった」と指摘する。
また愛知県のカーネーション産地では、契約販売先のスーパーの要望で結婚や葬儀での需要が多い白色や赤色を減らし、他の色を増やすなど品種を見直す生産者もいる。
流通でも、家庭・個人需要の拡大に向けた動きが見られる。切り花の配送型サブスクサービスの運営会社は、花の日持ち認証制度「リレーフレッシュネス」マークを取得し、消費者に品質の高さをPRする。また日持ちの一層の向上を目指して卸や複数の産地と連携し、生産・流通の全ての段階で認証を取得。こうした取り組みの拡大も進める。
切り花の生産・販売の回復、拡大には、新型コロナの感染動向も踏まえ需要の変化への的確な対応が求められる。それには、消費者・実需者ニーズといった情報の把握や販売戦略の構築、新品種の開発などで、生産者やJA、市場、流通、種苗会社などが連携を強化する必要がある。