[論説]収入安全網の見直し 安易な集約許されない
農水省が安全網の見直しを打ち出したのは昨年12月18日に開いた食料・農業・農村政策審議会企画部会。「類似制度の集約も含めて、セーフティーネット対策全体の在り方を検討すべきだ」とした。江藤拓農相は同20日の閣議後会見で、安全網を「見直すことは当然」と意欲を示した。
見直しの理由として、農水省は、「農業者や各制度の運営団体の人員減などが進む中、制度を持続的に運営するには集約を含めた見直しが欠かせない」と説明する。
背景にあるのが、国の財政負担の削減だろう。財務省の財政制度等審議会は2023年11月、収入保険、農業共済、収入減少影響緩和(ナラシ)対策、野菜価格安定制度について言及。22年の支払金額が1718億円に上り、財政支出が年々増加していると指摘、将来的に収入保険への一元化を進めるべきだと提起した。
財政負担を軽減するための、安易な集約は疑問が残る。いずれの制度も、収入補填(ほてん)という点では一致しているが、それぞれに他の制度にはないメリットがあるからだ。
例えば野菜価格安定制度。指定野菜14品目を対象に、平均販売額が補償基準価格を下回った場合、差額の9割を補補填する制度だが、指定野菜を作る産地が供給計画を立て、過剰生産していない場合は、産地の補填率が高くなる仕組みがある。同制度は収入の安全網に加え、需給調整の役割も担っている。こうしたメリットを踏まえず、同省がいたずらに制度を集約すれば、需給調整機能は失われ、野菜の安定供給は難しくなり、農業経営も打撃を受けると指摘したい。
そもそも収入保険は、青色申告を行っていることが加入要件で、利用できる人が限られている。既存の安全網を巡っては、生産コストを考慮した仕組みになっていないとの課題もある。加えて農産物の販売収入や販売額が一定水準を下回った場合の補填であり、生産資材価格の高騰には対応できない。
改正基本法でも、資材高騰の影響緩和策が盛り込まれた。検討すべきは類似制度の集約ではなく、生産コストの高騰にも対応した再生産を確保できる安全網づくりだ。安心して農業を営める環境整備こそ、食料の安定供給を支え、食料安全保障の確保、強化にもつながる。