[論説]トランプ米大統領就任 日本は食料安保を貫け
前のトランプ大統領時代、首都ワシントンでの車の移動は「時間が読めなかった」と聞いた。そこかしこに国境の壁のように交通検問が設けられたからだ。国内で分断が進んで反感が増し、警備を強化せざるを得なかった。検問でまた反発が生まれる。人や物の流れの停滞で反発が生まれるのは、国境措置も同じ。
米国の産業を守るとして、関税を上乗せする案が浮上している。カナダやメキシコ製品は25%にするなど、同盟国であっても容赦しない内容だ。中国については関税率をさらに上乗せするという。その結果、物流が滞り、各国が反発し報復も考えられる。
関税だけではない。デンマーク領であるグリーンランドの購入案である。デンマークは同じ北大西洋条約機構(NATO)に加盟。「同盟国にも軍事力行使を排除しない」との発言が、反感を買う。
日本が掲げる「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」とは、根本的に考え方が違う。発言は本気か。極端な案を出しておいて、後の交渉の起点を自分寄りにしようとの狙いか。真意を測りにくいが、日米関係に難しいかじ取りが求められることは確かだ。
中国は大豆などの農産品輸入を、米国からブラジル中心に切り替えた。米国産の売り先が減れば、米国産穀物価格を下押しする可能性はある。
しかし関税が上がれば米国の物価は上がり、為替は円安に振れる。日本からの輸入には値上げ要因も潜む。影響は読みにくい。移民を排斥すれば農業の労力は減り、生産性が落ちるとの見方もある。
米国第一主義の下、米国産品をさらに買うよう圧力を強めることも予想される。ただ、どの程度強硬に来るかは未知数。日本が米国から輸入する主な産品は、医薬品と農畜産物。このうち飼料用穀物と食肉は、日本農業への影響が大きい。折からの「令和の米騒動」。「米をもっと買え」の圧が強まる可能性もある。
大切なのは、相手が誰であれ、日本の姿勢をぶれさせず、理解を求めることだ。
改正食料・農業・農村基本法では、食料安全保障の確保が柱。国際情勢と気候変動の激しさを考えれば、食料安保の肝は、自給力強化にあることは明らかだ。鉄鋼が米国の安保上大事なら、米も日本の食料安保に欠かせない。日本の基本姿勢を改めて確認し、内外に知らしめるべきだ。