[論説]離れる食と農の距離 食育で心に種をまこう
熊本大学の徳野貞雄名誉教授は、福岡市民の食生活調査を基に消費者には四つのタイプがあると分析する。農業の価値が分かり、多少値段が高くても購入する「積極型」(5・4%)、家族の健康を守るために食の安全性に強い関心を持つ「健康志向型」(16・5%)、安全性を求めながら安さを求める「分裂型」(52・4%)、農業に関心がない安さ重視の「無関心型」(23%)。適正な価格転嫁の実現には、まず「健康志向型」「分裂型」の7割に食育を実践し、「積極型」に引き上げていくことが重要となる。
食と農の距離は遠くなる一方だ。鶏の唐揚げは好んで食べるのに、鶏の足が何本あるか分からない子どもたちもいる。首都圏の高校教諭は20年前から新1年生に鶏の絵を描かせているが、3~6本足の鶏を描いた生徒は全体の2割に上った。鳥インフルの発生などで鶏を飼う学校は激減し、鶏がどのように飼育されているのか、餌は何か、産地はどこかなど、生産現場に関心を持てない生徒もいる。
その距離を縮め、農業の理解者を育てるのが食育であり、JAの役割に期待したい。JAグループ愛知は2021年、県教育委員会と食育に関する連携協定を締結したことを機に、昨年から「あいち食農教育表彰」を始めた。食農教育活動を実践する県内の小中学校などの優良事例を発掘し表彰する取り組みで、今年は最優秀賞に蒲郡市立蒲郡西部小学校が選ばれた。
同校の全児童は59人。47年前に卒業記念に特産のミカンの木を植えたことで全学年がミカンに携わる。5年生から木を引き継ぐのは4年生で、今春からは1人が1本を担当。地元農家やJA蒲郡市の協力を得ながら、ミカンの栽培から加工、販売までを学ぶ。昨年は「もったいないをほっとけない」と摘果ミカンで加工品を作ったり、剪定(せんてい)枝を土づくりに生かしたりと児童が木と対話し、自ら考え、行動を起こした。竹尾公孝教頭は「授業を通して農家の苦労を表面的には理解していても、実際にミカンを作ることがいかに大変なことか、分かる子に育つ」と指摘する。
こうした食育を受けた子どもたちは、「価格が高い」の向こうにどんな問題があるのかを想像し、農業の現状を理解できる大人になるだろう。
今こそ、子どもたちの心に農の種をまこう。