[論説]減らない農作業事故 安全教育の義務付けを
農水省は2023年に発生した農作業死亡事故は、236人で前年(238人)と同水準と発表した。発表は常に2年遅れ。24年度から26年度までの3年間で死者を年間119人に半減する目標を設定、安全対策を強化する方針を示した。農業従事者が減れば、死亡事故は減る。「事故死半減」という目標設定は評価するが、欠かせないのは、10万人当たりの事故死をどう減らすかという視点だ。
危険・汚い・きついの「3K職場」といわれた建設業は、10万人当たりの事故死は4・6人となり、農業と建設業は倍以上の開きが出た。担い手が減る中、女性や若者、外国人など多様な農業者の参入が期待されるだけに、危険と隣り合わせの状況を放置していいはずがない。国民の食を支える農家の命を守ることは、食料安全保障の確保に直結する。今こそ農家の命を守る法整備へ、政府や議員は動き出してほしい。
同省は、25年度の農作業安全対策の推進方針に「学ぼう!正しい安全知識」を掲げ、熱中症対策研修と農業機械作業研修の強化を掲げた。農業系の高校や大学、新規就農時などには、安全教育や研修が欠かせない。
参考になるのが、車を使う事業所を対象にJAFメディアワークス(東京都港区)が実践する「交通安全トレーニング」だ。従業員が交通事故を起こせば、企業側に「使用者責任」や「運行供用者責任」が問われ、人的、時間的、物的損失が生じ、社会的な信用を失うとして、交通安全教育の導入を提案している。
学生・若者プラン、ベテラン、事故を起こした人向けの対象別プランを用意し、①継続する②知識をつける③言語化させる④管理する──ことで事故撲滅を目指す。1日5分、スライドやドライブレコーダーに基づく映像などを通して安全意識を高め、導入初年度で新卒社員の事故ゼロを実現した企業もある。
トラクターは公道も走行する。農業の雇用労働が増える中で、こうした仕組みを応用できないか。農作業事故を仮想体験する農研機構とJA共済連が開発した「VRゴーグル」と合わせ、新規就農者からベテラン農家まで、事故を「自分ごと」と捉え、安全最優先の機運を高めよう。
JAなどに行けば、いつでも安全研修が受けられる、そんな風土を根付かせたい。