[論説]学生の「みどり戦略」 若者の力で農に活気を
政府の掲げるみどり戦略では、2050年を目標に、農業の環境負荷の軽減を目指すが、課題は誰が食と農業の未来を担うのか、という点だ。農水省は30年には農業の総経営体数が54万と20年比で半減する試算を示す。年間平均5万以上の経営体が農業をやめていく計算だ。人口流出が激しい秋田県では「10年後には、基幹的農業従事者がいなくなる」(JA秋田中央会・小松忠彦会長)という声もある。
みどり戦略の実践には、気候変動への国民の関心を高めることが重要だが、若者ほど低い。内閣府が23年に公表した世論調査によると、18~29歳で気候変動に「関心がある」のは31%で、70歳以上の60%の半分にとどまる。
求められるのは、若者が環境への意識を高める仕掛けづくりだ。岡山県立瀬戸南高校の活動が参考になる。同校の生徒は、地元から回収したキノコの廃菌床を堆肥化して校内で野菜を栽培する。育てたトマトやキュウリの規格外品を高校近くのカフェに販売し、地域内循環を実現する。生徒たちは活動を通して環境への意識を高め、関係者に対しても資源循環の重要性を広めている。
近畿大学の学生は「地域支援型農業(CSA)」を実践する。奈良県曽爾村との接点をつくったことで、同村に旅行したり、村の農林公社に就職したりと地域と関わる若者が増えた。
環境問題への挑戦は、未来のリーダー育成に最適だ。鹿児島工業高等専門学校は、地下水汚泥から発酵肥料を製造し、茶の栽培に使えることを確かめた。懸念される重金属の蓄積もなく、収量は県内平均と同等以上だった。チャレンジを通じて高専生は、実践的な経験を積みながら、知識とスキルを身につけている。
課題解決に向けた若者の取り組みは興味深い。だが、多くの場合、成果をそのまま農業現場に取り入れるのは難しい。必要なのが周囲の支えだ。岐阜県では、特産「各務原にんじん」の規格外品を活用し、弁当を開発・販売する東海学院大学の学生を、JAぎふ、JA全農岐阜やスーパーなどが産学官連携で支える。その結果、販売店舗は7県約240店に拡大、1カ月の販売期間で削減できた食品ロスは1トンに上った。
若者の取り組みを地域を挙げて支援することが、持続的な地域づくりの一歩となる。