改正種苗法に留意 権利保護と許諾適正に
佐賀県が育成者権を持つブランドかんきつ「にじゅうまる」(品種「佐賀果試35号」)が、不正栽培され販売されていた。今年産の「にじゅうまる」は3月3日が初出荷だった。だが2月中旬、県外の百貨店で販売されていたのをJAさが職員が見つけた。
発端は約10年前、県内の農家が県の試験園から無断で穂木を持ち出し、苗木を増やしていたこと。県内の別の農家がその苗木を購入し、収穫した果実を県内の集荷業者に出荷。県外の卸売市場を通じて小売店で販売したものだった。不正流通した果実は市場が自主回収した。県職員が、県外の小売店の店頭から撤去されたことも確認した。
「にじゅうまる」を栽培するには、県などに申請した園地で生産し、JAから苗木の譲渡を受ける必要があった。
この「佐賀果試35号」は、県が20年かけて開発。21年から「にじゅうまる」というブランド名で発売。3日の初せりでは8玉(3キロ)入り1箱で最高20万円の値が付いた。
不正栽培は、こうしたブランド化への努力に水を差す。不正に苗木を取得して、その株を増殖し第三者に譲渡するなどして、利用を認めていない県外や国外に苗が持ち出され、品質の悪い作物が栽培されて流通すると、結果として市場全体の評価が下がり、産地の努力が水の泡となる。
県は今後、改正種苗法に基づき、不正に栽培された木の伐採や粉砕、焼却処分を行う。「せっかく時間をかけて収穫できるまで育てた木を切るなんて」と思う人もいよう。だが、不正に栽培された木が地域に残っていれば、また出荷されてしまう可能性がある。法律に従って栽培に取り組む農家の不利益につながってはならない。
県は、これまで改正種苗法の順守をさまざまな場面で呼び掛けてきた。だが、県内では今回の不正栽培に加え、昨年11月にはブランドイチゴ「いちごさん」の育苗圃場(ほじょう)で、苗約40株が盗難被害に遭った。
苗や種子など産地にとって欠かせない財産を守るには、作付けする品種にどのような規制があるのかを学ぶ必要がある。改正種苗法が完全施行されれば、登録品種で自家増殖をする際には開発者の許諾が必要となる。公的機関などは農家に負担がかからないよう配慮すべきだ。育成者権侵害で罪に問われる場合もあり「知らなかった」では済まされない。