大豆ミートの急増 畜産と共存し環境配慮
植物由来や細胞を培養した肉などの「代替タンパク質」需要について民間の矢野経済研究所は、2021年で世界に4860億円の市場があると推計する。海産物や昆虫タンパクも含めたものだが、前年に比べて25%の伸びとなり、25年には1兆円を超え、30年に3兆円市場になるとの予測を示した。
代替肉とは、大豆を牛、豚、鶏の肉のような味わいに加工したものが主流で、小麦由来のものはグルテンミートと呼ばれる。植物性のタンパク質を肉や魚に見立てた日本の精進料理は「もどき料理」などと呼ばれ、古くから食べられてきた。
需要の高まりを受け農水省は3月、「大豆ミート食品類」の日本農林規格(JAS)を施行。大豆だけのものや、卵や乳など動物性の原料が含まれた商品が出回り始めたことから、消費者に分かりやすく示すことが目的だ。
日本植物蛋白(たんぱく)食品協会によると、主に代替肉に使われている粒状の脱脂大豆の国内生産量は21年が3万6000トン。原料は輸入大豆が中心で、10年前より1万トン増えた。近年は国産大豆を使った代替肉も増え、食感や味の改良が進む。
市場が拡大している背景には国連の世界人口推計で21年の約79億人が、50年には約97億人へ増加する見通しがある。食料の需要が増え、持続可能な開発目標(SDGs)への対応を急ぐ必要がある。
代替肉と競合が懸念される畜産は、飼料に穀物を与えた場合の効率や、牛のげっぷなどが温室効果ガスにつながるなど、環境への影響を指摘する声もある。一方で畜産は牧草や食品残さなどを餌として、栄養価の高い肉を産出する重要な産業だ。副産物となる皮革などの活用や、堆肥の利用により化学肥料を削減したり土壌を改良したりする効果もある。
農水省は環境負荷低減の施策方針「みどりの食料システム戦略」の推進に必要な技術開発を進め、畜産1経営体当たりの温室効果ガス排出量を3割減らす目標を掲げる。牛のげっぷに含まれるメタンを抑える餌や、堆肥化した際に出るガスを減らす技術開発も進める。
代替肉市場は畜産物があったから生まれた。大豆の輸入が不安定になる中、国産大豆の増産が急務だ。環境に配慮し、代替肉と畜産が共存できる農業の在り方を探る時だ。