気象庁によると、全国で発生した1時間当たり50ミリ以上の激しい雨が降った年間回数は11~20年で334回と、1976~85年に比べて約1・5倍に増えた。
3週間後に再開
「災害は常にあるものと想定して対策を打っている」。中山間地域の割合が約7割を占める広島県の安芸高田市でチンゲンサイを栽培し、2回の豪雨災害に遭った市ケ原農産代表の住川渉さん(36)はそう話す。
住川さんは2018年4月に同市で新規就農し、6月に初収穫を迎えた直後、西日本豪雨の被害を受けた。ハウス13棟54アールのうち、6棟約30アールが浸水。土砂やごみなどが入り込み、浸水した影響で軟腐病も多発。農産物被害は約200万円に上り、「農業を始めたことを後悔していた」と振り返る。
被災経験から、豪雨災害を想定して、夏場の栽培体系と排水設備を見直した。豪雨の際は、標高が高い土地から低い土地に水や土砂が流れ込んで廃棄が多くなった。そこで、7、8月は、一度水害に遭った標高が低い場所のハウスは使わず、比較的高地のハウスだけで栽培する。排水ポンプを導入し、排水路回りにあぜを作るなど、事後の対策も徹底した。
21年8月にも豪雨災害に遭ったが、被災は前回の半分(約15アール)に抑えた。18年は営農再開まで約2カ月かかったが、21年は約3週間で再開。住川さんは「災害に強い産地と農家を目指していきたい」と前を向く。
島しょ部で農地の減災活動に取り組むのが、愛媛県今治市大三島の吉嶺春樹さん(42)。瀬戸内海に浮かぶ大三島で、レモンや「せとか」などかんきつ類を栽培する吉嶺さんは、新規就農する際に引き継ぐ予定だった園地が西日本豪雨によって崩落した。被災した経験を糧に、園地を分散するなど知恵を絞る。
被災したのは、JAおちいまばりの新規就農サポート事業の研修生時代。同期の研修生と一緒に管理していた園地20アールを豪雨が襲った。山間部から崩れ落ちた土砂と共に成木も流され、園地は崩壊した。「状況を確認しに行くこともできず、もどかしかった」と話す。
翌年6月の修了後、大三島で新規就農を決めていたため、JA職員とも話し合って早急に代わりの園地を確保した。災害リスクを最小限に減らせるよう農地の分散にもこだわった。車で最大15分離れた3カ所に確保。「リスクが少ないといわれる大三島でも豪雨災害が起こった。備えるに越したことはない」と指摘する。
個人で備えた上で、「災害を乗り越えるには、地域の協力が必要だ」と強調。JA職員や同期研修生の協力がなければ再生できなかった園地もあるからだ。現在、「せとか」10アールを栽培する園地は、成木の半分の高さ1メートルに土砂や石が流れ込み、1週間かけて撤去した。吉嶺さんは「自分一人だけではなく、地域一丸となって災害リスクに備えていきたい」と力を込める。
■取材後記
取材のきっかけは、記者が21年9月に広島県に転勤で来たばかりの頃に、派遣された豪雨災害の支援ボランティア。被害があった安芸高田市で土砂やごみの撤去作業に当たり、被災した70代の青ネギ農家に取材もした。復旧にめどが付き安堵(あんど)の表情を浮かべていたが、その年で離農するという。
その農家の表情が忘れられず、経験が少ない若手農家が参考にできる備えや対策を今回探った。印象に残ったのは、取材した2人とも地域全体で取り組む豪雨対策の重要性を訴えていたこと。地域一丸となって備え、対策することで、災害に強い産地づくりにもつながると感じた。
今季も度重なる豪雨が西日本を中心に襲っている。そんな中でも前を向き、柔軟に対応する現場の農家に引き続き寄り添っていきたい。