ウイスキーの原料は穀物、水、酵母。穀物によって種類があり、大麦だけのモルトウイスキーや、トウモロコシが主体のバーボンウイスキーなどがある。
モルトウイスキーで、国際コンクール最高金賞の受賞歴がある本坊酒造マルス信州蒸溜所(長野県宮田村)。2020年から、地元JA上伊那管内産の二条大麦を使ってウイスキー造りを始めた。
河上國洋ブレンダーは「地元産原料は香ばしい香りや、麦らしい甘味が強い。ウイスキーの本場、スコットランド産に引けを取らない」と評価する。
今年は地元産二条大麦を約20トン使い、仕込んだ。全体の8%に当たる。生産者からの要望もあり、増やしていく計画だ。
瀬崎俊広所長は「ウイスキーの風味を決定づける要素の一つが二条大麦。生産者は素晴らしい麦を作っている。その味を生かし、地域性を感じられるウイスキーを造りたい」と力を込める。地元産大麦を使ったウイスキーは3年以上の熟成期間を経て、味を見ながら商品化を目指す。
駒ケ根市で二条大麦を生産する林英之さん(46)は商品化を心待ちにしている一人だ。
林さんは2ヘクタールで「小春二条」を栽培し、JAを通じて全量をマルス信州蒸溜所に出荷している。「二条大麦は土壌成分によって全く育たない畑もあり栽培が難しい。だが、ウイスキー造りに携われるのはうれしい。地元産ウイスキーが世界で評価される日が待ち遠しい」と期待する。
輸出は過去最高
ウイスキー文化研究所の土屋守代表は「世界中でウイスキーがブームだ。ジャパニーズウイスキーは特に人気がある」と話す。財務省貿易統計によると、22年のウイスキーの輸出額は過去最高となる560億円。8年で約10倍と急伸している。
海外人気の背景には、①メイドインジャパンへの信頼感②日本の食文化への興味③繊細でバランスの良い味④国際コンクールでの受賞歴――がある。
土屋代表は「最大の理由はおいしさ。『日本製なら“外れ”はない』という期待も、外国人が手を伸ばすきっかけになっている」と強調する。
人気を背景に、日本各地で小規模蒸留所が続々と誕生する。同研究所によると、国内で稼働する蒸留所の数は80を超える。
小規模蒸留所が造るウイスキーの主流は、単一の蒸留所で大麦を原料に造るシングルモルト。同じ造り方をしても風土や水の違いなどで味や香りが変わり、個性が出やすい。
土屋代表は「原料となる穀物、熟成するたるの木材に、国産から一歩踏み込んで地場産を使うのがトレンドになっている」と説明。「米や裸麦など地域の穀物に着目して使う蒸留所も出てきた。生産者や自治体、JAと連携する動きも強まっている」と強調する。
取材後記
長野県上伊那地域で地場産二条大麦を原料に造られたウイスキーは、熟成開始から3年たった。生産者の林さんは「蒸留所の期待に応えられる大麦を作る」、蒸留所の瀬崎所長は「その大麦を地域性を感じられるウイスキーに変えるのが私たちの役目。蒸留法、仕込むたるなど工夫している」と、それぞれに強い思いと実践があった。
情熱と技術力を併せ持つ、蒸留所と生産者――。両者の存在があるからこそ、世界で認められるウイスキーが生まれているのだと思った。長野の麦でできたウイスキーの商品化を待ちたい。熟成期間も楽しみながら。