インターネットを通じて幅広く資金を募るクラウドファンディング(CF)。事業者の資金調達方法の一つとして定着し、大手CFサイトには、農業や食に関係する募集が多く並ぶ。メリットや成功のポイントは何だろうか。6次産業化やイベント開催など、農業から一歩踏み出す事業で活用した農家と専門家に聞いた。
福島市内で米、大豆、トウモロコシ、ホップなどを約60ヘクタールで生産するカトウファームは、クラフトビールを生産・販売する事業「Yellow Beer Works」を営む。自ら醸造所を構え、法人で作るホップを原材料の一部として利用するなど農家の強みを生かしてきた。
同法人は2022年に、同年開いた店舗の運営と醸造所の規模拡大に必要な資金の調達を目的に大手サイトでCFを実施。目標額の300万円を上回る408万円を集めた。
醸造を担当する専務の加藤絵美さん(42)は「CFは資金調達だけでなく、ファンづくりとして効果が高かった」と話す。呼びかけに応じた支援者は合計で343人。知人の農家や関係者以外に、CFをきっかけに事業を知った人も多かったという。支援後、店舗に通う常連客となった人もいた。
一方で、規模拡大のために新たに造る醸造施設の工期が予定より延びてしまい、支援のお礼として送るリターン品の発送時期が遅れるといった課題もあった。加藤さんは「支援者が不安にならないようSNS(交流サイト)などで随時報告した」と振り返る。
イベント集客に
宮城県涌谷町では、飼料用トウモロコシ畑を使った大型迷路イベントが今年で3回目を迎えた。実施主体は地元農家などでつくる実行委員会。町からの補助金は使わず、CFなどで資金を集めてきた。
今年はCFサイトで55万円を集め、会場までの来場者向けのシャトルバス代などに充てた。実行委員長で酪農家の齋藤常浩さん(44)は「CFがSNSで拡散されたことで、イベントへの参加者も増えた」と波及効果を強調する。来場者は2日間で2200人に上った。親子の参加も多く、「食育や親子で農業を身近に感じられる機会になっている」という。
「信頼」に応えて
大手CFサイトのキーワード検索で「農業」と入力すると、約3400件がヒットする。その目的は「ライスセンターの建設」「無人草刈りロボの開発」「学生による農園づくり」などさまざまだ。
東北大学大学院農学研究科の伊藤房雄教授は「CFは、JAや銀行などの融資に比べて、短時間で少額を集めるのに向いている」と話す。長期の収支計画などを示す必要がなく、農家が掲げる夢や目標に共感する人がいればすぐに資金を調達できるためだ。
一方で「リターン品の送付や事業の進捗(しんちょく)、資金の使い道の報告をやり切ることが大切だ」と指摘。消費者は農家が目的を達成することを信頼してCFで支援する。今後も農家を応援したくなるよう、その信頼に応える取り組みが重要としている。
取材後記
8月に国立科学博物館が行ったCFは、開始わずか9時間で1億円を集めたことで話題となった。支援者からは「好きな施設に貢献できることがうれしい」「リターン品が待ち遠しい」といった応援の声が寄せられた。
取材をした2人の農家に共通したのも、CFを通した仲間づくりの意識だった。消費者が実際に加工品づくりやイベント運営に加わることが難しくても、支援金を送ることで、メンバーの一員になれる。農家側は、SNSでの報告などを通して、支援した消費者とつながることが成功の鍵になると感じた。
CFがきっかけとなり、農業や食への関心を深める消費者も少なくないはず。農業に関わる人を増やす方法の一つとして役立てる農家の動きに注目したい。