農地集約や省力化などスマート農業への期待が高まっている。広大な農地を自動操舵(そうだ)で進んだりドローンで防除したりする様子は圧巻だ。一方、農家に聞くと、「バッテリーがたくさんいる」「修理に時間がかかる」などマイナス点もあるという。“リアル”な課題を先進地・北海道の農家に聞いてみた。
ドローン速いが
津別町で小麦約18ヘクタールを栽培する市場達也さん(39)は、小麦の防除にドローンを活用する。「ドローンはとにかく作業が速い。1・5ヘクタールの防除なら約10分で終わる」と満足そうだ。やり方次第で、従来のスプレヤーでの作業時間の10分の1で作業を終わらせることができるという。
市場さんは「想定よりもモノや人が必要で、思ったほど効率化できていないかも」と語る。バッテリーをたくさん準備するには費用がかかるため、現状では、ドローンは面積が比較的狭い水田に向いていると考える。
さらに、市場さんがドローンの操縦免許の取得にかかった費用は約30万円。航空法や農薬取締法などの知識が必要となり、市場さんが受験した際は受験者の10%も受からないなど、難易度も高かった。
トラクター故障
北海道では、自動運転対応のトラクターも盛んに使われている。トラクターを高精度に自動運転できるRTKシステムの導入が進む。自動運転対応のトラクターは位置情報を受信するガイダンス装置などを装着する必要がある。保管方法などは従来のトラクターと同様。導入するJAなどによると管理や使用の手間は特段かからない。
JAつべつの佐野成昭組合長は「サーバーダウンなどが起きると農作業が完全に止まってしまう」とし「JAとしてはアンテナの数を増やしたり、近隣JAと連携したりして、電波障害が起きても他の場所で補う体制を整えている。国や関係企業にも、さらなる基盤整備を求めたい」と主張する。
通信環境も影響
農業資材を総合的に扱うイノチオグループは、スマート農業のデメリットを①導入コストの高さ②システムの互換性が整っていない③通信環境の地域差④IT人材の不足──と整理している。システム導入に500万円以上かかる他、一部地域ではデータ通信が不安定になるとしている。
帯広市でジャガイモ、小麦、テンサイ、大豆の畑作4品とナガイモを約30ヘクタールで作付けする大崎真裕さん(35)は、スマート農業を駆使し、地域にも広げている。
スマート農業の良さを実感するが、マイナス点も当然ある。気温が上がると衛星利用測位システム(GPS)の精度が落ちるとも指摘。ナガイモは真っすぐに植えないと生育に影響が出るが「正確に植えるには、その前に農地に真っすぐな溝を作る必要がある。その作業は自動操舵の精度が確かな気温が低い朝に行うようにしている」と説明する。
“光と影”を理解して最新農機をうまく活用する大崎さん。「自動操舵を導入して農作業が本当に楽になった」と実感している。
<取材後記>
北海道では、トラクターの高度な自動運転を可能にするホクレンの「RTKシステム」のID数(契約数)が4年で6000を超えた。最先端の農機への関心は高い。
スマート農機はサーバーダウンなどが起きると機能しなくなる。機器に頼りきりの農家は、その間何もできなくなってしまう。普段から故障など不測時の対応も考えるべきだ。これまではスマート農業の長所や先進地を多く取材してきた。今後は、スマート農業に対する農家の不測時の対応方法なども取材し、発信したい。
関竜之介