「これ、全部捨てちゃうからよかったら持って行って」──。取材先の農家で、形が少し曲がっていたり、傷の付いたりした野菜や果物をもらうことがある。一口食べると、おいしい。なぜ売らないのか尋ねると、「規格外品を安く売ると正規の商品が売れなくなる」という。規格外品を収入につなげる可能性を調べた。
多様な販路の確保が重要
規格外品を農家の所得につなげている団体がある。味や鮮度に問題はないが、JAなどの規格に合わないサイズや傷の付いたかんきつを相場よりも高く買い取って販売するグループ、「きりぬき」(松山市)だ。県内の農家60戸から年間で約750トンの規格外品を買い取り、主に青果品としてネットやイベントで販売している。
相場より高値で
きりぬきでは、例えば伊予カンは1キロ当たり50円、「紅まどんな(愛媛果試第28号)」などの県独自品種は同300円と、規格外品の相場の数倍の値で農家から買い取る。買い取り量は多いところで年間30トン。農家側は、年間で10万~250万円の収益につながっているという。
きりぬきでは、販売サイトに農家の収益につなげたい思いを記載し、趣旨に賛同した人の購入を促す。規格外かんきつは農家から買い取った額の約2倍の値段で販売し、売上金で流通コストや農家への支払いを賄う。出した商品はほとんどすぐに完売するという。
産地に配慮必要
規格外品の販売によって「正品が売れなくなる」と批判を受けることもあるが、「(正品と競合しないよう)加工用に欲しい人たちに適正価格で販売するのはありだと思う」と鈴木さんは考える。「取引先の農家からは、自分の作るミカンの価値を再発見できたと喜んでもらえた。農家の所得が増え、愛媛のミカン農家が増えればうれしい」と願う。
こうした活動について、県内の露地野菜農家は「ある販路では規格外になってしまった野菜も、別の販路ではニーズがある。顧客の用途を踏まえ、適正な販路に適正な価格で出すことは重要」と賛同する。一方、規格外品の出回りが過剰になれば「産地のイメージが悪くなり、販売価格が下がるのではないか」(JA関係者)と懸念する声もある。
「規格は適切か」
食品ロス問題に詳しい日本女子大学の小林富雄教授は「規格に収まるよう努力することが前提だが、多様な販路を確保することは重要」と指摘。特に、有機農家や新規就農者は規格外品が出やすい。規格外でも受け入れてくれる販路を見つけ、「味の良さなどに自信を持ち、価格交渉する力も必要」とする。
さらに小林教授は「規格緩和」の必要性を訴える。流通側でも規格外品を選別して加工用に回す作業に、割に合わない手間や費用をかけている場合があると指摘。「今の規格が適切か見直し、青果として安定供給することを考えてもいいのではないか」と話す。
<取材後記>
畑に高く積まれた規格外品を農家が「くず野菜」と呼ぶのを何度か耳にしたことがある。最初は「そういう呼び名なんだな」としか思っていなかったが、農家のかけている労力を知るほど、「くず」という響きに違和感を覚えるようになった。
きりぬきの鈴木さんと小林教授から聞いた話で共通するのが、「かけた労働力とコスト、エネルギーは規格外品も正品も同じ」ということだ。特に今は、肥料や農薬などの価格が高く、農家の経営は厳しい。農村では、少ない人手をやりくりして農業が営まれている。そうして作った野菜が、ただ捨てられたり、安く買いたたかれてしまうのはもったいない。なるべく農家の収入につながる形で規格外品を受け入れる販路が増えると良いなと思う。
(溝口恵子)