こだわりの品種で勝負
農産物(イチゴ) 泊成一さん
「1粒入り」から伊都菜彩で最も売れる農産物はイチゴ。約20人が出荷をし競争率も高いが、JAいわく「最も売れる生産者の一人で、問い合わせも多い」という農家が、同市の泊成一さん(56)だ。
泊さんは、妻の直美さん(53)とハウスでイチゴ20アールを栽培。暖房機はなく、促成栽培はしない。「紅ほっぺ」や「おいCベリー」など7品種を栽培。12~5月に生果で出荷し、うち約8割を伊都菜彩に仕向ける。土づくりにこだわり、どの品種も酸味がまろやかなのが特徴。昨年「とまベリ」で商標登録した。
泊さんは福岡県のブランド品種「あまおう」を作らない。北海道の「桃薫」や鹿児島の「さつまおとめ」など、自らの舌と栽培方法に合った品種を栽培。希少品種もあり「『あまおう』とあと一つ欲しいという人に、二つ目のイチゴとして選んでもらえる」と狙いを明かす。
1粒入りから複数品種が入ったもの、化粧箱入りまで6、7種類の形態で並べる。価格帯も150~4000円と幅広く、客は用途に応じて選択できる。
品種特性は手製の店内広告(POP)やシールで明快に説明。包装資材も工夫する。多いときには2度出向く追加搬入時に客と話し、消費者ニーズをつかむ。農閑期には消費地の売り場に出向き、果実の味や梱包(こんぽう)資材の研究に余念がない。
<ポイント>
○珍しい品種を栽培
○どの品種も酸味がまろやか
○多様な用途に応じる商品構成
○違いが伝わるPOPやシール活用
○商標登録でブランド化
○食味や資材の研究に熱心
独自の配合、味付けが人気
加工品(草餅、豚足) 小川武臣さん
大好物を商品化もう一人、売れ行き好調な加工品を手がける同市の小川武臣さん(63)も紹介してもらった。草餅と豚足を出荷する。
小川さんは水稲を12ヘクタールで栽培。自家のもち米と自家製あんこで40年草餅を作り続け、現在は息子の議雅さん(32)名義で出荷する。武臣さんの母が始めたことから「たけちゃん農園のかあちゃん手作り」のブランドで、3個入り260円。多いときは1日120個を作る。
「待っとった」という人が多く、正月や農繁期の数日を除き、毎日出荷する。あんこの塩加減が絶妙で、餅は時間がたっても硬くならないよう独自の配合で作る。
親から継承した草餅に対し、豚足は武臣さんが大好物だったことから、自ら作り始めた。九州産の素材を使った自信作だったが「最初は売れなかった」という。しかし「味を覚えてもらい、徐々に売れるようになっていった」と振り返る。
現在、豚足は多いときで1日3回出荷し、200本を販売する。2本入り540円で、真空パックもある。他にも豚足の出荷者はいるが、塩だけで味付けするのは武臣さんだけ。臭みがなく、ふっくらとした食感が特徴だ。冷めてからの香りが良いと、手間のかかる炭火焼きにこだわっている。
<ポイント>
草餅
○変わらぬ「かあちゃんの味」訴求
○時間がたっても硬くならない工夫
○ほとんど休みなく出荷
豚足
○味が浸透するまで粘り強く販売
○素材の良さが生きる味付け
○手間のかかる工程で食味を向上
売れ筋の条件は
直売所作りのプロ、JA全中の山本雅之特別研究員に直売所で売るための要点を聞く。「枝で完熟したトマト」のように、客はスーパーにないものを直売所に求める。違いが分かるように「朝取り」「完熟」などPOPやちらしで明確に伝えることが大切だ。加工品もスーパーにない「手作り」「無添加」「地場の原材料」の三つがそろうと売れ筋になる。
直売所の購買層は、素材から調理する時間のある60代が中心だ。あえて市場流通しづらい在来種を作れば、「昔かじったキュウリの味で懐かしい」と胃袋をつかめる可能性もある。
反応を直接得られるのも直売所ならではだ。追加出荷の際に消費者の声を聞き、自分なりの改良を加えると良い。
<取材後記>
直売所は面白い。出荷者手作りのPOP、広域流通しない珍しい品種や加工品を目にし、行楽地に来たように心が躍る。スーパーでは手が出ない価格でも、直売所では迷わず籠に入れるときがある。
一方、同じ品目でも複数の出荷者のものが並び、どれを買おうか悩むのも事実。何度か買って満足すれば「この生産者なら間違いない」となるが、その最初の選択が難しい。
売れている生産者は、こうした消費者心理に寄り添っている。丁寧に客の声を拾い、栽培品種や出荷形態、パッケージなどに反映させる。魅力あふれる直売所の裏側では、多くの手間が惜しまず注がれていることが分かり、直売所を訪れる意欲が一段と増した気がした。
(柴田真希都)