戻った子どもの歓声 農業体験とも連動
キャンプのテントが張れる校庭。ピアノや太鼓などを備え、いつでも遊べる音楽室……。週末や行楽シーズンは親子連れでにぎわう。2015年に閉校した川合小学校は今、交流拠点として新たな姿を見せている。
「学校なんやから、やっぱり子どもたちが喜ぶ施設がええやろ」
校舎を活用する「非営利型株式会社かわい」の代表、土佐祐司さん(69)は、そう強調する。同校OBの土佐さんは閉校後、かつて児童の声が響いていた校舎が「ずっと放置されているのを見るのがつらかった」と振り返る。交流拠点として再生しようと有志で同社を発足。22年から拠点の運営を始めた。
市内で水田26ヘクタールを手がける農事組合法人かわいの代表も務める土佐さんは、同校を訪れた子の収穫体験農園に条件不利地を用いるなど、拠点での交流と農事組合法人の活動を連動させる。
祭りなどのイベントも開き、年間3000人が訪れる。見知らなかった子ども同士が友達になり「またここで遊ぼうよ」と約束し、リピーターになることも。「今後も人が集まる場所にしたい」と土佐さんは思い描く。
店舗と工房併設 住民の雇用創出
理科室や音楽室だった部屋で熱心に手を動かすのは、白衣を着た複数人のパティシエ。ケーキやどら焼きを作る。地元菓子メーカー「足立音衛門」は、20年に閉校した佐賀小学校を活用し、店舗兼工房「里山ファクトリー」を21年に開設した。
カフェスペースも設け、年間1万人超が訪れる。地域住民10人前後が従業員として働くなど雇用も生む。工場の集約を検討していた同社は、市を通じて廃校舎が活用できることを知った。同社の田原康暁総務部長兼販売部長は「学校は気軽に入りやすく、商品をより身近に感じてもらえる」と利点を挙げる。
地元の自治会長の大志万博さん(66)は「思い入れのある母校が、人が集まる新たな拠点に生まれ変わってうれしい」と喜ぶ。地域外から通勤する同社従業員が消防団に参加するなど、地域とのつながりを深めている。
「地域への貢献」重視
人口減少に伴い児童数が減り、市内では20年度までの9年間で16の小学校が廃校になった。校舎の維持活用のため、市は19年度から民間企業とのマッチングを開始。現在9校が活用されている。
市は倉庫や会議室としての利用ではなく、住民に何かしら貢献する拠点として生かすことを重視。事業者と地域住民が意見交換する場を複数回設けた上で、活用の認可を決める。「地域と寄り添う企業の力を取り込み、廃校を地域に活気や経済効果を生む場にしたい」(資産活用課)と構想する。
<メモ>
文部科学省によると、全国の廃校舎は2002年以降、毎年平均450校のペースで増え続け、21年時点で7398カ所ある。そのうち5481カ所と7割程度は、自治体が地域住民が集まるための場所や高齢者のデイサービスセンターなどに利用している。