四国少年院(香川県善通寺市)は、社会復帰に向けた職業指導の一環で農作業を取り入れる。更生の終盤に当たる退院間際の3カ月間、品目ごとに担当を決め、各種野菜の管理に関わるのが特徴。作物を育てる責任や収穫の喜びを経験し、社会の一員として巣立つことができるよう後押しする。退院後も農業に携わる人材もいる。
秋晴れの日。同院の敷地内にある畑で、少年3人が教官4人に見守られながら、サツマイモの収穫に励んでいた。作業服に麦わら帽をかぶり、姿は農家そのものだ。
真っ赤に色づいた大きな芋を掘り出すと、少年たちは「大っきく育ったな」「これは重たいぞ」などと話し、収穫の喜びをかみ締めていた。現在は10アール弱でサツマイモに加え、ナスやタマネギ、ピーマンなどを栽培する。
同院に収容されているのは傷害や窃盗、大麻、無免許運転などの罪を犯し、主に四国地区の家庭裁判所の審判で送致された男子14~20歳。現在24人が入所している。
平均的な収容期間11カ月のうち、農業に携わるのは退院間際の3カ月間。種まきから施肥や除草、水やり、収穫など、その時期に必要な作業を担当する。栽培した野菜は同院の給食に使われ、少年たちが実際に食べる。
指導に当たる法務教官の一人、浅野哲史さん(56)は、退院間際の3カ月は「社会に復帰するに当たって重要な期間」と強調する。そうした時期に農業に触れ、農作物という目に見える形で成果を実感することで「仕事の楽しさ、やりがいを知る人間になって社会に復帰してほしい」と願う。
退院後、農家で働く少年も
野菜作りに興味を持ち、参考となる本を自ら取り寄せて調べたり、退院時の振り返りで農作業のことを話したりする少年もいて「気持ちを込めて農作業をする少年は多い」と浅野さん。同院を出た少年のうち、1人は退院後の就業をサポートする国の「協力雇用主」に登録する愛媛県の農家で働いている。
農業を通じ、少年らが「誰かの役に立っている」という実感をより深め、更生をさらに支援するため、今後は地域の子ども食堂などに野菜を提供することも検討しているという。
農家ら協力雇用主、更生支え 有職者の再処分率低く
少年院を出た仮退院者のうち、再犯などによって処分を受ける割合は、職に就いている人ほど低い。法務省によると有職者の再処分率は2021年時点で14%で、無職の半分以下。農業を含め、各業種で仮退院者らを受け入れる「協力雇用主」の存在が重要な役割を果たす。
仮退院後、学生・生徒に戻った人の再処分率は17%。無職を下回ったが、最も低かったのは有職者だった。
仮退院者らの雇用の受け皿を確保するため、同省は協力雇用主の確保を進めている。奨励金を支給するなどして雇用をサポート。2万4000の登録があり、最多業種は建設業で、56%を占める。農林漁業は2%で、471件が登録している。
同省は「職に就くことは非行少年の社会復帰を後押しする。農業分野では、農福連携の動きとも連動して登録を増やしたい」(更生保護振興課)と話す。