「震災と同じ衝撃」 宮城 果樹×ナマコ 林英雄さん
「ナマコ漁師にとって処理水放出は、再び東日本大震災が起きたのと同じ衝撃だ」
宮城県東松島市宮戸地区で果樹農家の傍らナマコ漁に従事する林英雄さん(75)が、昨年の半値にも満たないナマコを手に、苦悶(くもん)の表情を浮かべた。
林さんによると、同地区のナマコのほとんどを中国に出していた。買い手探しが難航したことで、11月解禁の漁は1カ月の自粛を余儀なくされた。漁が始まっても禁輸措置の影響は深刻。キロ単価は昨年の約4割と大打撃を受けた。
同地区は都市部から離れた松島湾に浮かぶ宮戸島にある。中山間地域で農地は限られるため、昔から半農半漁で生計を立てる住民が目立つ。林さんが所属する奥松島果樹生産組合の8人は全て漁業との兼業。うち4人がナマコ漁師だ。
尾形善久組合長は「万が一漁業での収入がこのままであれば、地域にとって死活問題だ。場合によっては農業にも響く」と地域の衰退に危機感を感じる。その上で「国には一刻も早く、禁輸措置の撤廃を働きかけてほしい」と訴えている。
「海も丘も大変」 岩手 和牛×アワビ 横石善則さん
岩手県大船渡市三陸町吉浜地区の横石善則さん(75)は、和牛繁殖を営みながら、中華料理の高級食材として知られる「吉浜鮑(きっぴんあわび)」を生産する。
同県は中国の輸入停止の影響を受けるが、アワビの主力市場とされる香港の禁輸措置の対象外のため、宮城県に比べて影響は小さい。それでも「昨年と比べキロ単価は7割程度」(横石さん)と肩を落とす。また、海水温上昇でアワビの餌である海藻が消失しており、「これではアワビが取れなくなる」と表情はさえない。
農業も厳しい。肉用子牛価格の下落が続き経営は深刻だからだ。横石さんは、中山間地域で小規模の経営で暮らす。それだけに「海も丘も大変だ」とため息をつく。
「次代につなぎたい」 福島 米×ノリ 遠藤友幸さん
「岩子(いわのこ)は今も農業と漁業の地域。この形を次世代に引き継いでいきたい」
処理水放出にめげず奮起するのは、福島県相馬市岩子地区で、水稲3ヘクタールとアオサノリ養殖を手がける遠藤友幸さん(63)。長男の雄樹さん(37)と共に漁に精を出す。
同地区は、半農半漁で多くが暮らす。遠藤さんによると、同地区の世帯数の6分の1に当たる20世帯ほどが半農半漁。同地区内のノリ養殖の網数は、震災前の2、3割で、復興は道半ばだ。
ノリの養殖を若者から支持される産業に育てようと、遠藤さんはアオサノリの6次産業化商品を仲間と作り、2023年から東南アジアを中心に海外への販路獲得に力を入れる。そのかいあり、タイやオランダでの販売にこぎ着け、フィリピンには原料の輸出が始まった。「いつまでも東電が悪い、国が悪いと言っていても仕方がない」。復興に向けて前を向く。