[論説]農業×アニメ 業界超えて魅力発信を
若い世代を中心に人々を夢中にさせる物語を続々と生み出すアニメや漫画、ゲーム業界と農業との連携は、食べ物を作ることに対する国民各層からの共感と理解を得るチャンスとなる。
今夏、放送が始まったアニメ「天穂(てんすい)のサクナヒメ」は、稲作の全工程を実践するゲームが原作だ。アニメを見た人からは「稲作の大変さが伝わる」「子どもにも見てほしい」などと、インターネット上での反応も上々だ。こうした反響を生んでいる背景には、田園風景の美しさを追求しながら、食べ物を得るためには苦労が伴うことを描く、アニメ制作陣の真摯(しんし)な姿勢がある。
時代設定は昔の稲作をベースにしているため、現代の農業と栽培方法は違うが、田起こしや苗が倒れないための手植えの方法など、本格的な描写が数多く出てくる。
劇中では、主人公の「サクナヒメ」が手に持った苗を水田に入れると、きれいな波紋が広がる。アニメならではの表現が、稲の栽培工程や自然の姿を鮮やかに映し出す。一方、荒れた田を再生させるために自力で耕したり、下肥で堆肥を作ったりと、農業の大変さを伝える場面も描いており、共感が広がりつつある。
農家は今、担い手不足や資材高騰などの課題に直面している。農業の実態を理解し、適正価格を受け入れる消費者を増やすためにもアニメや漫画、ゲームの力を借りたい。
北海道の酪農家出身の荒川弘さんが手がけた農業高校が舞台の漫画「銀の匙(さじ) Silver Spoon」の影響も大きい。畜産・酪農を学び、農業経営や食料生産について試行錯誤しながら奮闘する高校生を描いた。アニメ化されるほど人気を集め、よつ葉乳業の牛乳とコラボレーションパッケージも生まれた。
作品を通じ、子どもに酪農の魅力を伝えようと、北海道釧路市の酪農家、浅野達彦さん(36)は、小中学校に漫画を贈るプロジェクトを手がけ、道内だけでなく東京にも対象を広げている。浅野さんは「気軽に楽しんで読める漫画はとっつきやすく、子どもを含めて多くの人に響く発信力がある」と期待を寄せる。
担い手を確保する上で、若い世代に農業の豊かさや魅力を伝えていくことは重要な課題だ。アニメや漫画、ゲーム業界との連携を進めたい。