五輪・パラ支えた最高の木 卓球台に岩手・岩泉産材 災害続く町に活力を
「卓球台の脚部がテレビ画面に映った時、最高の気分だった」。こう話すのは林業歴約30年の佐藤さん。今大会の卓球台には「ウダイカンバ」と呼ばれる木材を使用。カバノキ科で、木目が緻密で美しいことが特徴だ。
町はかつて林業で栄えた。最盛期の1955年には、2000人近い林業従事者がいた。しかし60、70年代にかけて急激に落ち込んだ。町によると現在、最盛期の10分の1。後継者不足も深刻だ。近年では大規模な自然災害が頻発。2011年3月の東日本大震災に続き、16年8月の台風10号では死者25人(関連死など含む)を出し、町に暗い影を落とした。
「林業で何かできないか」。そう思案する中、松永さんが偶然目にしたのが16年に開かれたリオデジャネイロ大会の卓球台だった。その脚部には同県産のブナが使用された。「東京大会で岩泉の木材が使われれば盛り上がる」と思いつき、千葉県流山市の卓球台メーカー・三英に直談判した。
■半年間探してようやく確保
18年に採用にこぎ着けたが、指定された直径36センチ、長さ2・2メートル以上のウダイカンバは、10ヘクタールで1本あるかないかという希少材だった。松永さんは、知り合いの伐採業者に連絡するも、すぐには確保できなかった。探し続け半年後、「条件が合った木が見つかった」との吉報が届く。発見したのは、松永さんから依頼を受けていた佐藤さんだった。
見つけた場所は崖の下の傾斜地。車が通れる林道から直線距離で2、3キロ離れていた。新たに作業道を作り、3カ月かけて運び出した。佐藤さんは「品質を落とさぬよう慎重に切り出した。岩泉町で品質含めて一番良いウダイカンバだ」と胸を張った。
東京大会は卓球日本代表の活躍で何度も卓球台がテレビ画面に映し出された。だが「岩泉産の木材が卓球台に使われたことは、地元でもあまり知られていない」と、松永さんは残念がる。
佐藤さんは「岩泉産の木材が使われたことを知れば、林業に少しでも興味を持ってもらえる若者が出てくるかもしれない。パリ大会でも要望があれば、ぜひ協力したい」。林業従事者を増やすために一肌脱ぐつもりだ。