人口14億5093万5791人(昨年末現在)は世界最多で、20歳未満は33・5%。2059年ごろに17億人を突破後、減少すると予測されている。総面積328・7万平方キロは日本の8・7倍。農地は国土の6割、食料自給率は200%。
インドは学齢期も世界最多の2400万人。その大半が通う公立校では、カースト(身分制度)を超え、校庭や廊下で給食を共にする。平等の配膳は校長の大切な職務なのだ。
この日の献立は、ジャガイモたっぷりカレーとローティ(ブレッドの一種)、ラッドゥ(団子菓子)。児童は「食べたいだけ」入れる思い思いの器を自宅から持参する。
「ダンニャワード」。感謝を唱え、おいしそうに食べる児童の姿を眺めながら、ムケシュさんが言った。
「無償提供の給食が始まって20年。貧困からわが子を働かせていた親も、学校に行かせようと考えるようになった。地域の未就学児がゼロになり、公教育本来の姿になった」

アクシャヤ・パトラとは「無尽蔵の器」。「一人も教育から取り残さないため、世界最高の学校給食を目指している。だから、日本の品質管理を手本にした」。調理場の所長、ゴビンド・ダッタ・ダスさん(44)が言った。
マトゥラ調理場の一日
草木も眠る午前0時、ウッタルプラデシュ州マトゥラにある3階建て調理場に明かりがともった。これから7時間、370人体制で17万5000食を作る。
その食数はインド最大規模で、世界的にも規模の大きい日本の大型給食センターが作る食数の10~20倍だ。
食材は、敷地内の畑で有機栽培しているキャベツなど野菜の他、100を超える業者が市場から調達して前日までに納品している。
インドでは宗教上、牛や豚など食べてはいけないものがあり、誰もが食べられる野菜や豆類を具材にしたカレーが基本だ。食に禁忌がほとんどなく、毎日多様な料理を作る日本と比べ、インドが膨大な食数をこなせる理由にもなっている。
主食はご飯の他、ナンやチャパティ、ローティ。これら小麦のパンは、生地の成形からグリルまで1時間に5万枚を焼き上げる自動製造機で作られ、床が乾燥しているドライ棟に置かれている。

独自の「縦型」3層構造
日本の給食調理場はさまざまな工程を同一フロアに置く「横型」だ。洗浄、皮むきやカットなどの汚染区域と、調理、配缶などの非汚染区域を分け、各工程の動線が交わらないよう衛生管理されている。インドでも同様のシステムが検討された。しかし、食数が桁違いに多いため、同一フロアだと広大な敷地が必要になり、各工程の管理も広範になる。
そこで、マトゥラの調理場は「縦型」を考案。野菜の皮むきやカットを3階、調理を2階、配缶を1階とし、各階を配管でつなぐ一方、工程を階層分けしたことで日本と同等の衛生管理を実現した。
この日、3階にある機械で一口サイズにカットされたジャガイモは、2階の圧力調理タンクに直結する配管に落とされて数時間でカレーになり、1階に続く配管を通って食缶へ充填(じゅうてん)された。

トラック80台で配送
夜明け前の午前6時、カレーやパンなどを別々に入れた2000校分の食缶は、輸送トラック計80台に積み分けられ、調理場を次々と出発。配送係のラビンダ・シンさん(27)も運転席に乗り込み、「私は6歳と4歳の父親。子どもたちの大切な一食を届ける仕事を誇りに思う」と言った。午前8時、調理場の清掃が始まった。野菜の皮や切りくず、残さは、敷地内にあるバイオマス(生物由来資源)発電所に運ばれ、施設で使う電力の一部となる。同財団の広報担当、ディリプ・クマールさん(42)が「資源を無駄にしたくないから」とほほ笑んだ。
午前11時、ジャガイモたっぷりカレーとローティ、ラッドゥの入った三つの食缶が、日本の義務教育校に当たる初等・上級初等学校「PMSHRI SCHOOL」に届いた。
配膳を担う校長のムケシュさん(45)は「食は子どものことを知る手がかり」だと言う。食欲旺盛な子、小食な子、別の器に家族の分も入れてもらおうとする子などそれぞれの事情を知り、可能な限り対応している。
「ダンニャワード(ありがとう)」。児童1008人が食前の感謝を唱え、右手で器用に食べ始めた。7年生のラディカさん(13)が言った。「給食がおいしいから学校も楽しい。たくさん食べてたくさん勉強して、立派な先生になる!」

これらは「全員参加の生産保全(TPM)」と呼ばれる、公益社団法人日本プラントメンテナンス協会(東京)が1971年、製造工場やプラントでロスをなくすために提唱した管理システム。同調理場も2004年の稼働時に導入した。
同協会によると、導入に認可などは不要で、国内外の製造現場で普及している。ただ、給食調理場での導入は珍しく、「興味深い活動」だと関心を抱く。
調理場の370人はプレートを毎日見て気を引き締める。「各国を視察し、TPMの素晴らしさを知った。日本を手本に、世界最高の学校給食を実現したい」。所長のゴビンド・ダッタ・ダスさん(44)が決意の笑みを浮かべた。

総裁のマドゥ・パンディット・ダサさん(65)が、子どもと犬が食べ物を奪い合う姿を部屋の窓から見て心を痛め、給食を無償提供しようと創設。2000年に南部ベンガルールの5校から始め、24年末で16州・2連邦直轄領の2万4000校に広がり、現在も増加中だ。経費の大半を各州政府の補助や寄付で賄う。