米価高騰を巡る報道が続く中、鳥取市の農業法人トゥリーアンドノーフ社長の徳本修一さん(49)と、JA全農とっとり本部長の小里司さん(54)が対談したユーチューブ動画が話題を呼んでいる。小里さんが、価格の仕組みを具体的な数字で示し「JAがため込んでいる」との誤解に真っ向から反論。「発信しなければ認めたことと同じだ」として現場の実情を発信する。
同法人運営のユーチューブチャンネルの動画は25日現在、5万5000回再生され、550件を超えるコメントが寄せられている。
反響は「反対意見や批判も覚悟していたが、賛同の声が多かった」(小里さん)と振り返る。特に卸・小売り関係者から「実態をよく分かっている」との評価もあり、国会議員からも「実態を教えてほしい」との声が寄せられたという。
動画では、米価上昇は一部の“スポット取引”による需給の混乱が原因と指摘した。昨年夏、米不足が顕在化した際に、JA以外の業者が集荷を強めた。そのため、卸や小売りなどは系統外から高額で米を確保する必要に迫られ米価が高騰した。
全農とっとりは2024年産の生産費払い(概算金)と7月に予定する精算金で、生産者の手取りは合計で2万2000~2万3000円を見込む。「民間の集荷業者に価格面で負けないはずだ」(小里さん)と話す。
JAは現地で米を保管し、市場に安定的に供給する。だが、需給が乱れた結果、価格が高騰し米流通への不信も広がった。徳本さんは「JAが米をため込んでいるといった誤解がある」と指摘し、小里さんは「実物があるからため込んでいるように見えるが、実態は注文の指定日に供給できる体制を維持しているだけだ」と応じた。
農業者やJA職員が誇りを持てない社会にはしたくないと言う小里さんは、「大切なのは国に供給責任を問うだけではく、メディア任せにもせず、自分たちの食料をどうしていきたいか一人一人が考えること」と話す。
動画では苗立ちを支える種子処理技術「リゾケア」など大規模経営を支えるJAグループの取り組みを紹介。全農とっとりでは、鳥取市で26年産からリゾケアを種子処理する工場の稼働も予定する。
直播(ちょくは)で約100ヘクタールの水田を管理する徳本さんは、「JAは大規模農家と相反するイメージがあったが変わった」とし、「大規模農家を支えるソリューション(解決策)がJAにはある。鳥取から新しいモデルケースを共に打ち出したい」と話した。
ユーチューブでの発信に踏み切った背景には、従来のメディア報道への問題意識もある。「テレビや新聞は尺が限られ、要点だけを抜かれる。結果的に意図しない文脈で使われることが多い」。その上で、「きちんと伝えるには、長時間の説明が不可欠だった」と強調した。
全農とっとりは現在、適正価格に基づいた販売モデルへの転換を進める。具体的には、生産コストを積み上げ、概算金を「生産費払い」として設定。26年産では手数料を開示した上で消費者に販売するモデルも検討する。
現在の米価格の高騰は「消費者心理」にも左右された。報道によって不安が広がり、ごく一部の消費者が大量に購入する“パニック購買”が発生。小里さんは、テレビや新聞などマスメディアに、短期的な視点で消費者心理をあおるような報道を控えるように苦言を呈した。
米相場を巡る構造的な問題も見逃せない。小売からの過剰な値下げ要求や特売負担の押し付け、返品指示などによって、卸業者は長年収益を圧迫されてきたと指摘。「卸の利益が500%と、疑問視する声もあるが、事実に反する」と強調。「本来の手数料さえ満足に取れない状況が続いてきた」と卸の実情を代弁した。
中長期的には、食料安全保障への備えが不可欠で、価格の話だけにとどまらず「中山間地域の意義」「水田が守ってきた文化や景観」「U・Iターンの受け皿」としての農業の多面的価値に目を向けるべきだとも語った。
(大森基晶)