ハウス内環境の把握で収量アップ! 高知県が取り組む新しい農業の形に迫る



 高知県では農作物の生産性向上に、デジタル技術を活用した農業の高度化およびデジタル技術に詳しくない人でも活用できるツールの開発を推進している。その1つがモノのインターネット(IoT)・人工知能(AI)技術を利用した営農支援「植物のインターネット(IoP)が導くNext次世代型施設園芸農業への進化プロジェクト」だ。その核となるのは、施設園芸農家のデータをオンラインでつなぎ集約するクラウド「SAWACHI(サワチ)」だ。生産者はそのデータを活用し、生産性や収益向上に結びつけることができる。高知県の「農業デジタルトランスフォーメーション(DX)」の取り組みに迫る。


収集するものの「活用」できなかった農業データ

「耕地面積が少ない高知県にとって、農作物の生産性向上は最優先課題です。面積当たりの収量をいかに増やすか試行錯誤してきました」と話すのは、高知県農業振興部農業イノベーション推進課IoP推進室 主幹の松木 尚志氏だ。

これまで高知県は、環境測定装置を各農家のハウスへ設置するよう呼びかけてきた。ハウス内の環境情報を正しく把握することで日々の判断に活用する狙いだ。この取り組みにより2~3割もの収益増を達成するなど、農業分野にデジタル技術を活用する「農業DX」を推進してきた。

しかし収集したデータはおのおので保有し、個別に使用するにとどまっていた。

「環境測定装置がネットワークにつながっていないため、先輩農家のデータを新規就農者への指導に生かすことができませんでした」と松木氏は振り返る。

この課題を解決すべく産学官連携プロジェクトを開始。「IoPが導くNext次世代型施設園芸農業への進化プロジェクト(以下、プロジェクト)」と呼ばれ、2018年度の地方大学・地域産業創生交付金を利用して立ち上げられた。

「IoP」は植物の生理・生態情報を可視化して栽培管理などに活用し、各産地で共有する概念だ。高知大学IoP研究センター長・北野 雅治教授が提唱したもので、IoT技術を活用することにより、環境情報、植物の生育状況、収量、収穫時期などの情報の見える化を目指す。

プロジェクトでは収集したデータを一元管理することで、従来個別に継承されてきた農業のノウハウを新規就農者が簡単に参考にでき、ベテラン農家であっても他のハウスの情報と収量データから事実に基づいた判断が可能となる。


農家から自治体、JA、大学、企業までが扱える農業データ収集を目指す

22年10月時点で環境測定装置は1500戸(主要7品目全体で58.7%)に設置され、データを農業に生かす環境制御システムは、全国トップの普及率を誇る。さらに300戸分のハウス内環境、2000戸分の出荷データ、生物生育環境、労務管理など、さまざまなデータを収集・一元管理している。これらのデータを農家・自治体の指導員・JA・大学・企業などが共有し、県内の農業に生かしている。


作物の情報が「見える・使える・共有できる」

プロジェクトでデータの連携基盤を担うのが「IoPクラウド」(通称「SAWACHI(サワチ)」)だ。SAWACHIは実証運用を経て22年9月に本格運用を開始した。

SAWACHIはハウス内の機器が収集したデータや、農産物の出荷時期のデータなどを、リアルタイムで集約・管理するクラウド型のデータベースシステムだ。データベースとAI技術を組み合わせ、栽培・生産管理の最適化や出荷時期を予測。パソコンやスマートフォンなどでデータにアクセスできる仕組みだ。高知県やJA高知県による支援・指導体制により、「データを活用する新しい農業のスタイル」確立を目指す。

(引用:高知大学 IoP協創センター IoPとは)(引用:高知大学 IoP協創センター IoPとは)


ユーザーと一緒に改善した使い勝手

クラウド活用に加え、このプロジェクトの核となるのがユーザーと作り上げた使い勝手だ。高知県では農家ユーザーと話し合い、デジタル技術に詳しくなくてもわかりやすい、使いやすいツールの開発を目指した。例えば未来の気温を予測するには過去の気温データが重要なことから、それらを簡単に確認できるようにした。また、利用者のレベルに合わせてカスタマイズできるなど、ニーズを丁寧にくみ上げて作られている。

SAWACHIのユーザー用画面イメージ

高知県農業振興部 農業イノベーション推進課 IoP推進室 主幹の仙石氏は、「高知県では、25年までに県下の全てのハウスがSAWACHIと連携することを目指しています」と語る。

SAWACHIの構築は、20年度に公募により県内外の4社で構成されるジョイントベンチャーが受託。同企業体がSAWACHIのクラウド基盤として提案したのが、アマゾン ウェブ サービス (AWS) だ。

AWS利用のメリットを、同じくIoP推進室の仙石氏は次のように明かす。

「非常に安定して稼働しており、堅固なセキュリティ体制も構築できています。インターネット経由でも安全に接続できるという点は、農家にとっても大きなメリットと言えます」。

これまでの成果を受けて、高知県ではプロジェクトをさらに推進していく方針だ。

「新規就農者はデータ活用を前提としています。まずは収量が多い農家のデータを真似して、同程度の収量を得られるようにデータ活用を進めたいですね。安定した収入を確保することで、安心して農業が行える環境を作っていきます」と松木氏は意気込む。


実は親和性の高い「農業」と「クラウド」

「農業」と「クラウド」、一見すると交わりそうにないが、高知県のように課題にうまく取り入れることで大きな成果を目指す先駆者がいる。高知県はAWSのIoTサービスを活用して収量向上を目指したが、例えば農作物の遠隔監視による生育状況の把握、肥料の在庫データと連携した在庫管理・自動発注など、アイデア次第でAWSのサービスで実現できることは多い。グローバル企業であるAWSでは国内外の農業DX支援事例があるが、初めの一歩は顧客からの問い合わせや相談であることが多い。課題や取り組みたいアイデアがあれば、まずはAWS に問い合わせてみてはいかがだろうか? 高知県にも多くの視察希望が寄せられている。新しい農業への期待は大きい。

高知県の(左から)仙石さん、戸梶さん、松木さん



■高知県への問い合わせはこちら
高知県農業イノベーション推進課 IoP推進室
TEL:088-821-4570
e-mail:160601@ken.pref.kochi.lg.jp

■AWSの問い合わせはこちら
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<制作=日本農業新聞 広報局>








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