宮崎県延岡市北方町は釜いり茶の産地で知られ、全国茶品評会では上位入賞の常連だ。商品開発や移動販売で消費の裾野を広げ、特産茶を次世代に引き継いでいる。生産者らは今夏、悲願の最高位である産地賞獲得へ、一心同体で同品評会に臨む。
「60代最後の今年こそは」と並々ならぬ決意で生産に励むのは、同町曽木の甲斐義之さん(69)。同賞は上位3人の合計得点で競う。従来の最高は2位。3月末の寒波、遅霜などで例年よりやや生育は遅れたが、品質は上々で期待が高まる。
品評会には地元の緒方武彦さん(59)、甲斐正太郎さん(55)、甲斐透さん(45)の4人で挑む。皆、JAみやざき延岡地区本部・延岡茶生産組合の部会員だ。2020年の同品評会で農水大臣賞を獲得した義之さんがまとめ役となる。

煎茶など大半の日本茶は高温で蒸して発酵を止めるが、釜いり茶はいることで止める。香ばしい「窯香」とすっきりした味わい、澄んだ美しい水色が特徴。日本茶生産に占める割合(20年)は、わずか0・02%と希少だ。
同地区は古くからの釜いり茶の産地。丘陵地特有の寒暖差がうまい茶を育む。義之さんらは5ヘクタールを栽培。「今回は従来以上に芽がそろうよう、茶園管理に細心の注意を払った」(同)。品評会用には「一芯二葉」(芽の状態の葉とその下の2枚の葉)だけを収穫した。
義之さんは40年前、家業のため県外から帰郷し、妻のまち子さん(69)と茶作りを始めた。みやざき茶推進会議の審査基準をクリアした宮崎ブランド釜いり茶「釜王」をはじめ、地域ブランド茶として仲間4人で開発した「天滝茶」は、JA直売所などで人気だ。緒方さんは「しょうが紅茶」なども考案した。

義之さんの熱意は家族に波及。繁忙期は三姉妹全員が手伝う。特に移動販売車で県北一円を周り、茶葉入りのリーフティーカップなどで知名度アップに貢献する三女・久美さん(40)の存在は大きい。
地産地消の高まりを受け、JAでは20年ほど前からペットボトル飲料「のべおか茶」(500ミリリットル)を販売。直売所に地元茶のコーナーを設けるなど側面から生産者を支える。
出品茶は現在、保冷庫に保管。7月上旬に取り出し、粉を除き、形を整えるなど最終調整に入る。品評会は8月27~30日、静岡県で開かれる。義之さんらにとり今年は、ひときわ暑い夏となりそうだ。