一番最初の遠征のことは、忘れられません。あれは僕が高校3年生の時。インドのカルカッタ(現コルカタ)に行きました。衝撃的でしたよ。
泊まったのはゲストハウス。インド中を回って修行を積む僧侶たちが利用するような施設です。到着したのは夜中の11時か0時。その夜は疲れて、バタンと寝ました。
翌日起きて朝ごはん。カレーが出たんですけど、ご飯の中に黒いものがいっぱいあったんです。よく見たらハエ。ライスのお皿の中に、10匹はいたと思います。どうするか悩んだけど、とにかくおなかが減ってるからハエをとって、比較的ハエがいなかったところを食べましたね。
昼は競技会場でサンドイッチとかが出たんですけど、ゲストハウスに帰って夕飯がカレー。翌日も。3日目くらいまでは期待したんですよ、そろそろ違う料理が出るだろうと。でもまたカレー。10日ほど泊まったんですけど、結局朝と晩は全部カレーでした。
強烈だったのが水。コップに入った水の下2センチくらいが沈殿してるんです。オタマジャクシがいる池の水のようになってるんですね。どうしようかと思っていたら、先輩が「今日は俺、まず上の1センチだけ飲んで、体の様子を見る」と言って飲みました。翌日、「1センチ飲んだら便が緩くなったから半分にする」と言って、調整をするんですよ。なるほどと僕も真似して、便の状態を見ながら飲みました。
インド遠征で、それまで日本では経験したことのない、生きていく上で根幹的に必要なものを学んだような気がします。
ヨーロッパも当時は食事に良い印象は少ない。というのも、野菜が少ないからです。皿の上に色の付いた野菜が見当たらない。
イタリアに行った時は良かったんですけど。真っ赤なトマトがいろいろな料理に使われていましたし、ボウルにサクランボが山盛りになっていました。それに続くのはスペインですね。色の付いた野菜がちゃんと出た記憶があるのは、この2カ国くらいです。
寒いから他の野菜が取れないのでしょうが、北海道では寒くてもいろいろな野菜を作っています。最近はお米もおいしい。農業試験場などでの研究が進んでいるからでしょうし、農家の皆さんの努力の成果なんだと思います。たくさんの種類の野菜を食べられるということはありがたく、ぜいたくなことだと思います。
還暦を超えた今も、現役競技生活を続けています。食に関してはこれからも農家の皆さんに感謝しながら、成績向上に努めたいと思います。(聞き手・菊地武顕)
やまもと・ひろし 1962年、神奈川県生まれ。横浜市立保土ヶ谷中学1年からアーチェリーを始め、3年生時に全日本アーチェリー選手権大会出場。高校・大学時代にインターハイ3連覇、インカレ4連覇を達成。84年のロサンゼルス五輪で銅メダル。20年後の2004年のアテネ五輪で銀メダルを獲得し、「中年の星」と注目を集めた。現在も現役選手として活躍する他、日本体育大学教授を務める。