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御嶽山噴火の年ですから2014年。テレビの番組で、田舎暮らしをするという企画があったんですね。そこで長野の飯島町の家を借りて、かみさん(タレントの江口ともみさん)と二人でしばらくの間暮らしたんです。その時に「農業体験もしましょう」と、農家の人が畑のことをいろいろ教えてくれました。
その人とすごく仲良くなったので、以来、番組とは関係なしに何回も遊びに行くようになりました。
ある日「リンゴの収穫を手伝ってくださいよ」と言われて手伝ったんです。とにかく量がすごい。リンゴが何百箱も収穫されます。その上で大きさを選定する。大変なんですけど、やってみたら面白くて。そんな僕に「1本、あげるよ。これ、いい木だからさ」と言ってくれて。
普段の手入れはお任せしているんですが、行って農作業をするととても充実した気持ちになれるんです。食するということのありがたみを感じるわけですよ。実際にやってみて、大変なんだなという半面、達成感が得られて。自分で取った物はものすごくうまいと感じます。
豊かな自然の中で農作業をするうちに、実家のことを思い出しました。親父とおふくろは、伊豆でワサビ農家をやっていました。親父が亡くなりおふくろも年を取った今、ワサビ沢は人に貸していますが。
子どもの頃、ワサビ作りを手伝ったことはないんです。というのも、うちのは一番棚と言って一番上の場所にあるんです。水が絶対枯れない一番いい場所なんですよ。
一番いい場所だけど、行き来は一番大変。昔は収穫したワサビを背負って下りてきたわけです。危なかったというのもあったかもしれませんが、僕がそこに行ったのは1回か2回くらいですね。
取ってきたワサビは、葉っぱを落とし根を取るなどの処理をしないといけません。その手伝いはしました。子どもですから、ワサビのうまさが分からない。なんでこれが売れるんだろうと疑問でした。
ですから「おふくろの味は?」と聞かれると困るんですが、漬物がうまかったことは覚えています。いろいろ漬けていたんですが、僕はたくあんのすごく古いのが好きでした。
おふくろはたくあんを1枚取っては割いてくれました。でも最後まで割かず、下の方はくっついたまま。まるで葉っぱのように上だけ開いた形なんですよね。それをご飯の上に載っけてくれるんです。すごくおいしくて、たくあんを食べる時には必ずおふくろに頼んで割いてもらいました。これをごちそうだと思っていたんだから、貧乏ですよねえ(笑)。
たくあんに使ったダイコンは、たぶん家の畑で作った物だと思います。それを漬けて作ったわけですから、おいしいに決まってますよね。今になって思うんです。貧乏どころか、なんてぜいたくで幸せなおふくろの味だったんだろうと。
つまみ・えだまめ 1958年、静岡県生まれ。ガダルカナル・タカとのコンビであるカージナルスとして活動を開始し、後にたけし軍団に所属。俳優としての活躍も顕著で映画「HANA─BI」「座頭市」、ドラマでは「とと姉ちゃん」「花子とアン」「おひさま」といったNHKの連続テレビ小説や大河ドラマ「龍馬伝」などに出演。怪談話者としても活動。現在は所属事務所TAPの代表取締役も務める。