中学校の時からバスケットボールを始め、中高大とずっと練習をしていたんです。特に高校の時は食についても厳しい指導を受けました。ラーメン禁止、スナック菓子禁止、炭酸飲料禁止。体を大きくするため、体力をつけるために食べるという指導でしたので、肉と炭水化物をしこたま食べさせられました。大げさかもしれませんが、味というのは全然気にしないで、量を食べていたんです。もともと僕はご飯が大好きだったのに、あまりに食べさせられるから一時期嫌いになったほどです。
大学のシーズンが終ってから、反動じゃないですけどラーメン屋さんに行きまくりましたし、カップラーメンもよく食べました。それまで食べてこなかったからか、とてもおいしく感じたんですよ。
そんな僕が、30歳を過ぎてからご縁があって「あさイチ」(NHK)などに出演させていただき、ロケ番組で食レポを経験したんです。
その頃は食べ物についての語彙(ごい)力が全くなくて。スタッフの皆さんにいろいろ教えてもらいましたし、どうやったら伝わるか表現の仕方を自分の中でも考え始めました。
この仕事のおかげで、取れたての野菜が一番のごちそうだということを知ることができました。
中でもびっくりしたのはネギですね。「深谷ねぎ」。農家さんから取れたてを渡されて「まずかじってみて」と言われたんです。かじったら、まあ辛いんです。その後、今度は軽く土を払ったネギを炭火焼きにしてくれたんですね。周りの太い皮が焦げてきたところで「食べてみて」と言われて。周りの皮を取ったら、キラッキラした真っ白いネギが出てきました。それを食べたところ、とても甘くなっていたんですよ。数分焼いただけなのに。びっくりするくらいのおいしさでした。外側の分厚い皮があることによって、中は蒸し焼きみたいになったんですね。トロットロになっていました。
取れたて野菜がおいしいのは、水分量のおかげだと思います。僕はネギジュースと名付けてしまったんですけど、ネギから出てくる水分の甘味がすごいんですよ。
いい仕事に巡り合えたなあと、今でもうれしく思い出します。
取れたて野菜の感動をもう一つ。僕はアスパラガスが苦手だったんですね。筋張っている感触が舌に残るのがちょっと嫌だったんです。
番組の取材で北海道に行き、取れたてを生で食べさせてもらったんです。農家さんがアスパラの根っこを切って土を払って「食べてみ」と言うので、そのまま食べたら、全然筋張っていなかったんですよ。やっぱり水分量がすごくて、切った所からポタポタポタポタと垂れてくるくらいでした。
おかげで歯切れもよくて。フレッシュな苦味もあったんですけど、それは心地良い苦みでした。かめばかむほど、アスパラジュースが出てくるんです。このみずみずしさは衝撃でした。その上、炭火で焼いたら甘さが倍増しましたし。
食レポの仕事をしたおかげで、野菜の底力を知ることができました。それに、改めて自分がご飯好きだということにも気付かせてもらいました。各地、訪れる先々においしいお米があるじゃないですか。それをいただくと、ご飯というのはお母さん的存在だなあ、なくてはならない存在なんだなあと感じます。
食レポの経験は自分の仕事のキャリアを考えるととても大きな転機でしたが、同時に自分の食においても重要なターニングポイントだったといえます。そのことに感謝しながら、仕事を頑張ろうと思っています。
そえじま・じゅん 1984年、東京都生まれ。米国人の父と日本人の母を持つハーフ。バスケットボールに打ち込み、千葉県柏市立柏高校時代はインターハイやウインターカップに出場した。俳優として活動を始め、舞台や映画に多数出演。2017年から「あさイチ」でレポーターとして活動を始めたことを機に、バラエティー番組にも出演するなど活躍の場を広げている。