一つはカレーのパスタ。イタリア料理店でよく食べていました。
日本のカレーとは全く違うんですよね。見た目は黄色というか白というか。ちょっとカルボナーラっぽいんですよ。味もカルボナーラに若干カレーのスパイスを加えたような感じで、少し甘いんです。パスタはペンネで、具としてはベーコンと鶏肉が入っていました。
これがけっこうおいしかったんです。カレーソースはシェフの手作りで、その日のシェフによって味が違いました。おいしかったり、まずかったり。同じ料理なのに、若干のアレンジで変わってくるんです。味が濃い時の方がおいしかったなという印象があります。
他の店では一度も見たことがないパスタでした。もしかしたらイタリアに行ったら同じようなものがあるかもしれないけど、イタリアには行ったことがないんで。
もう一つもカレー味で、こちらはドイツ名物のカリーブルスト。カレースパイスとケチャップで味付けされたソーセージですね。僕はそれにマヨネーズを付けてました。ドイツ料理では一番食べていたかなというくらい、しょっちゅう食べていました。元々カレーが好きなのもあったんですけど、ほんとに中毒性があるというか。1回食べても、またすぐ食べたくなるような味でした。
ドイツ時代、食事は外食ばかりで、ドイツ料理とイタリア料理と日本料理のローテーション。ドイツ料理店に行ったら必ずカリーブルストを、イタリア料理店ではいつもカレーパスタを頼んでいました。
僕の住んでいたデュッセルドルフは、日本企業がとても多いところ。日本の本屋やレンタルDVDを扱う店がありましたし、日本食の定食屋やラーメン屋などもありました。定食屋では、せっかくだから日本ぽい料理を食べようと思い、豚のしょうが焼き、サバのみそ煮、かつ丼、それにカレーライスを食べました。店員もお客さんも皆日本人なので、そこにいる間は日本にいるみたいな感じ。週の半分くらいは食べに行ったと思いますね。
他に思い出深いといえば、シュニッツェル(子牛肉にパン粉をつけて揚げた料理)。ドイツのトンカツです。一般的にはレモンをつけて食べるんですけど、お店によってはソースも選べたりして。キノコとデミグラスのソースだったり、唐辛子が入って辛めのソースだったりとか。
シュニッツェルは試合で勝った後によく食べていました。ご褒美です。というのもそこそこいい値段がしたので、普段はなかなか食べられなかったんです。
ドイツでの最初の1年間は3部リーグで、2年目からの2年間は2部で戦いました。2部にはプロの選手もいれば、海外から来て経験を積んでいる若手などもいました。そこで良い成績をおさめて、最後の2年間は1部でやらせてもらいました。
5年間の留学でしたが、ホームシックは特に感じませんでした。でも普通の中学生・高校生の送る生活とはかけ離れてるじゃないですか。だんだん普通から離れていくということに対して、恐怖だったり不安だったりはあったと思いますね。
卓球協会や学校からの援助があったからできた留学です。国を背負って戦うという意識はまだありませんでしたが、中学校の時から「卓球で生きていかなきゃいけない」という覚悟は持っていました。それだけに結果を残さなきゃというプレッシャーは、もちろんありました。
そんな中で食べ続けたカレーパスタとカリーブルスト。これは忘れられない味です。
みずたに・じゅん 1989年、静岡県生まれ。2005年に15歳10カ月という史上最年少(当時)で世界選手権日本代表に選出される。06年度の日本選手権では史上最年少(当時)で男子単優勝。16年のリオ五輪では男子単で銅、男子団体で銀メダル。21年の東京五輪では、新種目の混合複で伊藤美誠選手と組んで金メダルに輝いた上、男子団体銅メダル獲得に貢献した。同五輪を最後に現役を退いた。